
今回は、自動車整備事業者にとっても参考になるホテル業界の現況やビジネスモデルの事例を紹介します。
【目次】
1 ホテル業界の事業スキーム
1-1 直営方式
1-2 リース方式
1-3 フランチャイズ方式
1-4 マネジメント・コントラクト方式(管理運営委託契約方式)
1‐5 他業界のスキームにもビジネスチャンスはある
2 ホテル業界のマーケティング手法
2‐1 集めたデータをどのように使うかが問われるエリアマーケティング
2‐2 大切なのは顧客ニーズを見極めること
3 星野リゾートのビジネスモデルに学ぶ戦略思考
3‐1 星野リゾートの顧客満足度を高める仕組み
3-2 顧客満足を向上させる思考術
4 ホテル業界におけるその他の特徴的なビジネスモデル
4-1 IoTを活用したスマートホテル
4-2 賃貸物件として利用できる「住むホテル」
4-3 書店と融合したブックホテル
5 まとめ
ホテル業界の事業スキーム
ホテル事業には、土地や建物などの不動産を所有する「所有」、ホテル運営の責任をもつ「経営」、日々のホテル運営を担う「運営」といった3つの柱があります(※1)。

(引用)株式会社アクア「お役立ち情報」を参考に作成
※FC=フランチャイズ、MC=マネジメント・コントラストの略
ここでは、上記3つの役割を踏まえ、ホテル事業のスキームをご紹介します(※2)。
直営方式
土地や建物をオーナー企業が所有し、かつ経営・運営にも直接携わる方式です。「所有」「経営」「運営」の3つの権利をすべて持っています。多額の資金が必要になるため、航空系会社や鉄道系会社など資本力のある大企業がオーナーになることがほとんどです。次々にホテルを増やすことは容易ではありませんが、知名度や企業体力があれば安定した経営が可能になります。リース方式
土地や建物を所有するオーナー(個人あるいは企業)と賃貸借契約を結び、ホテル運営の委託を受ける方式です。つまり「所有」するオーナーが、「経営」「運営」を別の会社に任せます。運営者は建物を直接所有しないため、直営方式よりも初期投資は少なく済みます。ただし、経営状態にかかわらず、オーナーに賃貸料(リース料)を払わなくてはいけないため、安定した収益を上げる必要があります。フランチャイズ方式
土地や建物を所有するオーナーがホテルチェーン企業と契約し、国内外の有名ホテルの名前や運営ノウハウを借りて、ホテル経営を行う方式です。直営方式に似ていますが、信用力の高い大手ブランド名や、同社の経営ノウハウを利用できることが大きな違いです。参入しやすい方式ではありますが、売上に関係なく「フランチャイズフィー(加盟料)」「ロイヤリティ(契約料)」を支払う必要があります。マネジメント・コントラクト方式(管理運営委託契約方式)
「所有」「経営」「運営」の3つの事業に、それぞれ別の企業が携わる方式です。ただし、「所有」と「経営」を同一企業が受け持つケースもあります。ホテルを所有するオーナーが、運営のノウハウを持つ専門会社に委託料を支払い、日々の運営を任せます。オーナーにとっては、運営の専門知識がなくても売上が確保でき、運営会社にとっては少ない資金・低リスクでホテル事業に参入できるメリットがあります。また、オーナーと運営会社が共同出資をしてホテル経営会社を設立することもあり、両者にメリットの大きいモデルと言えます。
他業界のスキームにもビジネスチャンスはある
ここまでホテル事業のスキームを見てきましたが、これらの方式はすべて自動車整備業界でも応用の可能性があります。例えば、マネジメント・コントラスト方式の応用として自身の会社で整備工場を所有し、運営は別会社に任せることが考えられます。複数の事業から売上を得られるため、資本効率の向上につながるでしょう。自身の会社の資本力や事業スキームを考慮しながら、合致する方式を採用し、ビジネスチャンスを活かしてみてはいかがでしょうか。
ホテル業界のマーケティング手法
自動車整備事業でも重要なエリアマーケティングについて、ホテル業界で行われている事例を紹介します。
集めたデータをどのように使うかが問われるエリアマーケティング
エリアマーケティングでは商圏分析を行い、自社とマッチする顧客の年齢層やニーズ、購買行動を見極め、事業展開をしていく必要があります。そうすることで、自社と相性の良い商圏や顧客の特性がわかるだけでなく、売上の予測も可能になります。ホテル業界では、顧客の旅行目的や同行者数、滞在日数など、さまざまな切り口で調査をしています。結果をもとに、宿泊施設に対するニーズを分析し、事業モデルを定義していきます。
近年、宿泊客の嗜好の多様性を視野に入れ、商圏内の温泉やレストランと協業し、事業を展開するホテルも多くあります。ホテルは素泊まりで、食事や温泉は宿泊客の好みに合わせて地域の施設を利用してもらうといった方法です。
さらに、宿泊客のスマートフォンやPCの位置情報をもとに、現在地や居住場所、行動履歴などを活用し、訪れている地域や店舗の情報などを配信するジオターゲティング広告を行うホテルも多くみられます。最適なタイミングで適切な情報を利用者に提供できる、地域密着型のデジタル広告です。
大切なのは顧客ニーズを見極めること
顧客のニーズを見極めるエリアマーケティングは、自動車整備事業にとっても役立ちます。そのためには、「自社の顧客がいつどこでサービスを知ったのか」「どのような経緯で来店したのか」「いくら使ったのか」などの情報を調査しなければなりません。その情報をもとに顧客を分析すれば、自社商圏のターゲット層を把握できます。そうすることで、商圏の顧客が求めるサービスを的確に提供できるようになるでしょう。
例えば、共働きで忙しい世帯は、自動車整備業者に車を持ち込む時間がないかもしれません。共働き世帯が多いエリアでは顧客の負担を減らすため、整備の際に引取納車や洗車などの付加サービスを提案するのはいかがでしょうか。顧客満足度も上がり、口コミで評判を広めてくれるかもしれません。
※Square(スクエア)導入で効率的な顧客管理を実現しよう
※顧客管理・顧客情報の分析による優良顧客の見つけ方を解説
※MEO対策(Googleマップ表示対策)とは?
星野リゾートのビジネスモデルに学ぶ戦略思考
BtoB、BtoCを問わず、「顧客ニーズ」を起点にした事業展開は非常に重要です。ホテル業界において、顧客ニーズを的確にとらえ、事業を成功に導いた企業の1つが星野リゾートがあげられます(※3、※4、※5、※6)。
星野リゾートの顧客満足度を高める仕組み
星野リゾートはなぜ的確にニーズをつかむことができるのでしょうか。その背景には、星野リゾートが「リート(REIT)投資法人」を持ち、投資家からホテル事業への出資を募っていることがあるように思われます。事業に出資してもらうには、投資家を納得させる利益予測業績が必要になります。そこで、魅力ある投資先をつくるため、同社は徹底的な調査・データ収集を実施し、ホテル経営に携わっているのです。
コンセプトを明確にしてから見込み客を絞り込むため、提供するサービスやレストランのメニューの組み立てがよりニーズにマッチされているだけでなく、同時に顧客満足度も上げられます。
顧客満足を向上させる思考術
自動車整備事業でも、商圏や既存顧客の分析が、利用者の満足度を向上させるファーストステップになります。何を買って、どのようなサービスを受けたのか。年齢層や性別なども調べたうえで、事業のコンセプト・方向性を決定します。コンセプトに合わせて整備工場の外観をリニューアルすること、ホームページを作成することなども、顧客満足度を上げる1つの方法です。ホテル業界におけるその他の特徴的なビジネスモデル
以下より、その他の代表的なホテル業界のビジネスモデルを紹介し、自動車整備事業への転用可能性について論考します。
IoTを活用したスマートホテル
近年、話題となっているのが、スマートホテルです。IoTを活用し、受付は無人化を実現しています。部屋までの荷物運びやルームサービスなどもロボットが行い、省人化が図られています(※7、※8)。人件費削減だけでなく省エネにもつながります。データ化された顧客の属性や施設内での行動履歴によって提供するサービスを変えるため、一人ひとりにマッチしたサービスが可能になるメリットがあります。
SQUEEZE(スクイーズ)の運営する無人ホテルでは、利用者の満足度を落とすことなく、部屋ごとの電気代を約10%削減、フロント人件費の約75%削減に成功しました。
自動車整備事業でも、同スキームを導入することで、フロントなどを無人化し、人手不足の解消や経費削減を図れるかもしれません。
賃貸物件として利用できる「住むホテル」
多くのサービスが、一定の料金を支払えばある期間利用できるようになるサブスクリプションとして提供されていますが、ホテル業界も例外ではありません。最近では、月額固定料金で宿泊サービスを利用できるホテルも登場しました(※9)。マンスリーマンションなどとは異なり、ホテル内のジムやラウンジ、大浴場などといった施設が利用可能です。加えて室内清掃サービスやアメニティの交換・補充、コンシェルジュなどのサービスを受けられるのは大きな魅力です。視点を変えれば、自動車整備事業でも参考になるビジネスモデルとなるでしょう。
今後人口が集中し、物件価値の上昇が避けられない都市部では、賃貸料も高騰し、整備場などのスペースを確保するのは困難になるでしょう(※10)。そこで、シェアオフィスのように月額料金を支払って、他社と共同で使用できる整備スペースを借りることなどが考えられます。逆に、土地や建物を所有しているのであれば、スペースを提供するシェア事業などを展開することも可能となります。
書店と融合したブックホテル
ホテル業界では、他業種と融合したビジネスモデルを採っている事業者も存在します。その1つが「泊まれる本屋」がコンセプトのブックホテルです。書店とホテルが融合したような宿泊施設でカフェやバーなども併設されている施設もあり、漫画喫茶からさらに一歩進んだ居心地の良い空間を提供しています(※11、※12)。
他業種とのコラボは、顧客との接点を増やすのに有効です。
社会福祉法人や医療法人、カフェなどと融合した整備場を作り上げ、単に整備工場に来るだけでなく、“来店時”に付加価値も付けることが考えられます。コラボレーションによって新たな顧客獲得も見込まれるため、長期的な収益増加が期待できるでしょう。このように、異業種との協業は一考の余地があるビジネスモデルです。
※将来を見据えた自動車整備・販売店の経営資源の有効活用方法
※不動産ビジネスの変化が車両整備業者にもたらす影響
まとめ
ホテル業界におけるマネジメント・コントラスト方式などの事業スキームは、自動車整備事業でも取り入れたいマネジメント手法の1つです。自動車整備工場の経営は専門の会社に任せて、自分は得意な自動車整備に専念することも可能です。
ホテル業界では、顧客の旅行目的や人数、滞在日数などのデータを収集・分析、そして活用するといったエリアマーケティングを実施しています。自動車整備業界でも同じように、エリアマーケティングを利用して顧客属性に合わせたサービスを提供することで、顧客満足度が向上します。
さらに、ジオターゲティング広告などのマーケティング手法、ブックホテルのようなコラボレーション経営なども、自動車整備事業者にとって参考になるビジネスモデルだといえるでしょう。
このように、ホテル業界には、自動車整備業界にも活用できるさまざまな経営のヒントが存在します。整備業界内における前例や形式にとらわれることのない事業展開が、これからは求められます。
サービスを提供するだけでなく、「来ていただいたお客様の満足度をいかに上げるか」という視点を持つことも重要です。「自分の車が安心・安全・快適になるサービスやモノが手に入る」といった付加価値をつける仕組みや取り組みによって、顧客の整備店へのイメージが確立されていきます。
自動車販売/整備店に特化した事業支援サービスを提供するビズピット株式会社では、ホテル業界の事例をもとにした事業開発の支援も行ってまいります。記事公開後1ヶ月以内は無料で相談を受け付けておりますので、ぜひお問い合わせください。
【引用】
※1
・おもてなしHR
https://omotenashi.work/column/bits_of_knowledge/11880
※2
・innto
https://innto.jp/column/post-1193/
※3
・仕組み経営
https://www.shikumikeiei.com/hoshino-resort-business/
※4
・マネタイズHACK
https://monetizehack.com/businessmodel/how-to-hoshino-business/
※5
・事業構想
https://www.projectdesign.jp/201602/businessmodel/002703.php
※6
・Business Journal
https://biz-journal.jp/2016/07/post_15704.html
※7
・おもてなしHR
https://omotenashi.work/column/bits_of_knowledge/7680
※8
・予約ラボ
https://yoyakulab.net/study/smart-hotel/
※9
・CNET Japan
https://japan.cnet.com/article/35168191/
※10
・総務書統計局
https://www.stat.go.jp/data/chiri/map/c_koku/kyokaizu/pdf/r2_gaiyo.pdf
※11
・楽天トラベル
https://travel.rakuten.co.jp/mytrip/howto/bookandbed-shinjuku-guide
※12
・箱根本箱
http://hakonehonbako.com/