
ガソリンスタンドの店舗数は年々減少傾向にあり、業界全体が厳しい局面を迎えています。一方で、地域密着型サービスの提供や事業多角化によって生き残りを図る事例も増えてきました。本記事では、ガソリンスタンド経営において今後の戦略策定に役立つ情報をお届けします。
ガソリンスタンド業界の現状と課題

近年、日本のガソリンスタンド業界は、店舗数の減少に加えて新たなエネルギー技術の普及や社会情勢の変化など、多角的な要因が絡み合う厳しい局面を迎えています。
ここでは、ガソリンスタンドが抱える課題を「ガソリンスタンド減少の理由」と「市場環境の変化とその影響」の二つの視点から掘り下げ、なぜ生き残りが難しくなっているのかを詳しく見ていきます。
ガソリンスタンド減少の理由
日本国内のガソリンスタンドは、過去のピーク時から比べると大幅に減少し、地域によっては「スタンド難民」という問題が深刻化しています。
背景には、ハイブリッド車や電気自動車(EV)の普及に伴い、ガソリン消費量が減少したことで、1回の給油で走行できる距離が増えたため、来店回数が減っていることが挙げられます。
また、公共交通機関の充実やカーシェアサービスの普及も相まって、自家用車を購入しない選択をする若年層が増えていることも理由の一つです。
このように車の燃費向上による給油回数の減少、若年層の車離れ、EV普及といった構造的な要因が重なり、業界全体の先細りリスクを高めています。
市場環境の変化とその影響
国や自治体は温室効果ガス削減の観点から、EVや水素自動車などの次世代エネルギー車を積極的に推進しています。
充電ステーションや水素ステーションの整備には高額な投資が必要ですが、補助金や減税制度を活用して早期に導入することで、将来の顧客基盤を確保できる可能性があります。
一方で、多くの投資資金を要するため、そうした新たな取り組みに着手できるスタンドとそうでないスタンドとの格差が広がる懸念も拭えません。
こうした投資の二極化が進むと、特に人口密度が低い地域でのスタンド撤退が加速し、いわゆる“スタンド難民”の問題が深刻化していくおそれがあります。
地域住民にとっては、給油が難しくなるだけでなく、防災上のリスクも増大するため、ガソリンスタンドの減少は日常生活に大きな影響を及ぼす可能性があるのです。
成功するガソリンスタンド2つの具体例
こうした厳しい状況の中でも、独自のビジネスモデルを確立し、地域社会から必要とされ続けているガソリンスタンドがあります。
ここではでは、地域密着型サービスの展開と多角化経営の取り組みに成功した具体例を取り上げ、どのような工夫がビジネス成長につながっているのかを紹介します。
1. 地域密着型サービスの展開
ガソリンスタンドが厳しい状況に置かれる中でも、地域に根づいて独自のポジションを築いている事例があります。
その一つの要因として、スタンドを単なる給油の場ではなく、地域住民が気軽に立ち寄れるコミュニティスペースとして再定義している点が挙げられます。
たとえばスタンド敷地内に地元農家の野菜や特産品を販売するコーナーを設置し、日頃の買い物を兼ねて利用してもらう取り組みを実施しているガソリンスタンドです。
また、自治体と連携して災害時の燃料供給と緊急電源を確保する拠点となることで、万が一の際に地域を支える重要なインフラとしての役割を果たすスタンドも増えています。
こうした形で地域からの信頼を得ておけば、住民にとっても“なくてはならない存在”となり、リピーターのみならず周辺コミュニティから新規利用者を呼び込むきっかけにもなります。
さらに、顧客との関係構築のためにちょっとした車両点検やタイヤの空気圧チェックを無料で行うなど、プラスアルファのサービスを積極的に提供することで「いざというときに頼りになる場所」というイメージを醸成している事例も少なくありません。
2. 多角化経営による事業拡大
ガソリンスタンドが生き残りを図るためには、燃料販売だけに収益を依存しない経営モデルを築くことが重要です。
国際情勢や原油価格、為替レートに左右されるガソリン単価に一喜一憂していたのでは、安定した収益は確保しづらいのが現実があります。
そこで近年注目されているのが、車検や整備、中古車販売、カーリース、損害保険代理店業務などを一括して行うワンストップ・サービスです。
利用者にとっては給油だけでなく、車に関連するさまざまな用事を一度に済ませられるメリットがあるため、“便利な場所”として評価されやすくなります。
さらに、コンビニエンスストアやカフェなどを併設し、日常的な買い物や休憩スペースとしても利用できる複合型施設をつくることで、車を持っていない人でも立ち寄れる身近な存在となるケースが見られます。
こうした多角化経営によって収益源を増やし、ガソリン価格の変動や景気の波を受けにくい安定経営を目指すスタンドが増えていることは、業界の新しい潮流と言えるでしょう。
ガソリンスタンドのビジネスモデルと収益構造
現状のガソリンスタンドのビジネスモデルはどのような仕組みで成り立っているのか、ガソリン販売ビジネスが抱える課題と、新たな収益源を模索する動きについて詳しく見ていきます。
利益率とその課題
ガソリンスタンドの収益は、主にガソリンや軽油などの燃料販売によるマージン、併設施設やサービス事業からの売上、さらには広告収入や各種リースなど多岐にわたります。
しかしながら、燃料販売そのものの利益率はもともと大きくはありません。
ガソリン税などの諸税や国際原油相場によるコスト変動、為替レートの影響などの要素が複雑に絡み合い、店舗独自の努力だけではコントロールが難しい部分が大きいためです。
しかも、近年はキャッシュレス決済の導入が進んでいる一方で、事業者側には手数料の負担が発生するという現実もあります。
このような状況下で利益率を上げるには、オイル交換や軽整備、車検といった付加価値の高いサービスや、洗車や中古車販売などの周辺事業で収益を確保する必要があります。
そうすることで、ガソリン単価の変動によるリスクを分散でき、経営を安定させることが可能になるためです。
新たな収益源の模索
ガソリンスタンドの経営環境が厳しさを増す中、安定した収益を確保するためにはガソリン販売以外のビジネスチャンスをいかに生み出せるかが重要なテーマです。
たとえば、EV充電ステーションや水素ステーションといった次世代エネルギー設備の導入は、将来の車社会の変化に対応するうえで避けては通れない選択肢です。
導入には高額な投資コストがかかりますが、国や自治体からの補助金を積極的に活用することで費用負担を軽減し、周辺地域のEVユーザーや水素車ユーザーを取り込むことが可能になります。
また、車にまつわるサービスのサブスクリプション化も注目されています。定期的な洗車プランや整備プランを月額制で提供し、契約者がいつでも気軽に洗車や点検を受けられるようにすることで、安定的な収益の柱を育てることができます。
こうした複数の収益源を確立しておけば、ガソリン価格の変動や景気の波に左右されづらい経営基盤を築くことができるでしょう。
生き残りのための戦略的ポイント
ここまでの内容から、ガソリンスタンドの経営環境は変化が激しく、従来のままでは生き残りが難しいことが分かります。
ここでは、特に経営者や事業担当者が押さえておきたい具体的な戦略ポイントを掘り下げていきます。
顧客との信頼関係の構築方法
ガソリンスタンドは、昔から「とりあえずガソリンを入れるために行く場所」というイメージが強いかもしれません。
しかし、利用者がわざわざ足を運ぶ施設である以上、そこには大きな接点が生まれます。
ガソリンの給油だけにとどまらず、車両点検やタイヤの空気圧チェックを気軽に相談できる雰囲気があれば、「車のことならこのスタンドに任せれば安心」と思ってもらえる可能性が高まります。
従業員の接客態度や知識を向上させる取り組みを継続的に行い、利用者が抱く些細な疑問にもスムーズに答えられる体制を整えておけば、結果的に口コミやSNS評価が良くなり、地域での評判向上につながるでしょう。
また、利用者が何か不満を感じた際に素早く対応して改善する仕組みを構築することも重要です。
SNSの公式アカウントや問い合わせフォームなど、利用者からの声を受け取るチャネルを複数用意しておくことで、トラブルが大きくなる前に解決策を提示でき、信頼を損なわないように守ることができます。
差別化されたサービスの提供
ガソリン価格をめぐる競争はどうしても避けられず、価格のみで差別化を図ろうとすると疲弊してしまうのが実情です。
そこで重要になってくるのが、他店にはない独自のサービスや演出を提供することです。
たとえば、地域の特産品コーナーを設け、地元農家や商店とのコラボ商品を販売することで、「給油ついでにちょっとした買い物ができる」という利便性をプラスできます。
あるいは子ども連れの利用者が多い場所では、キッズスペースや親子で楽しめるイベントを定期的に開催することで、ファミリー層のリピート率を高めることが可能です。
また、休憩スペースにカフェスタンドや軽食コーナーを設置すれば、運転中の小休止ができるほか、車を持たない人も立ち寄りやすいコミュニティスポットとしての役割を果たします。
こうした“付加価値”をうまく組み合わせることで、単に安いガソリンを入れるための場所というイメージを超えて、日常生活の中で存在感を示すことができるようになるのです。
新規顧客獲得のためのマーケティング戦略
SNSやYouTubeなどでメンテナンスノウハウを発信し、ユーザーからの相談を受け付ける取り組みは、潜在顧客に対する良いアピールになります。
また、LINE公式アカウントを活用してクーポンやポイント付与を行い、リピート率を高める事例も増えています。
地域イベントと連動したスタンプラリーやキャンペーンを実施することで、新規顧客層へアプローチすることも効果的です。
未来のガソリンスタンドを見据えて
ガソリンスタンドは、今後ますます環境対応や地域インフラとしての役割が期待される存在です。
ここでは未来を見据えた環境対応型ビジネスへの転換や、地域社会に対する貢献方法を確認し、持続的に成長していくためのヒントを解説します。
環境対応型ビジネスへの転換
環境への配慮が企業活動の大きなテーマとなっている現代において、ガソリンスタンドも例外ではありません。
EVや水素自動車の充電設備を導入するだけでなく、店舗の屋根などを活用して太陽光発電を行う、あるいは蓄電池を備えてピークカットを行うなど、再生可能エネルギーを積極的に取り入れることで、環境に優しい企業イメージを築くことができます。
こうした取り組みは、環境意識の高い顧客からの支持を得るだけでなく、自治体や他の企業との協働による補助金や助成金の申請機会を広げるメリットもあります。
今後ますます厳しくなるCO₂排出量削減やSDGs(持続可能な開発目標)の達成に向けては、ガソリンスタンドが率先して環境負荷を減らす取り組みを行うことが、自らのブランド力アップと企業価値の向上にも直結するのです。
環境対応の姿勢を明確に打ち出すことで、新たなパートナー企業との連携や大企業との提携を引き寄せる可能性も高まるでしょう。
地域社会への貢献と存在意義
ガソリンスタンドはもともと、人々の移動や物流を支える重要なインフラですが、近年はその役割が災害時や緊急事態にも注目されるようになりました。
停電や交通網の寸断といった緊急事態が発生すれば、電源や燃料の供給拠点としてガソリンスタンドが果たすべき役割は非常に大きくなります。自治体や消防、警察、医療機関との間であらかじめ協定を結び、防災訓練や緊急連絡網の整備を進めておけば、いざというときには地域を支える要の存在として活躍できます。
さらに、地域行事やイベントに協賛する、地元の学校やNPOと連携して交通安全教室を開催するなど、日常的な交流を深めることで、「地域にとって必要不可欠な施設」という認識を育むことができます。
こうした取り組みの積み重ねが、地域住民にとってガソリンスタンドが単なる商業施設ではなく“地域の資産”であるというイメージを形成し、長期的な信頼関係と安定した経営基盤をもたらすのです。
結局のところ、ガソリンスタンドが本当の意味で生き残り、発展を遂げていくためには、環境対応と地域社会への貢献の両立が不可欠となってくるでしょう。
まとめ
ガソリンスタンドは長年、車社会の根幹を支える存在であり続けましたが、EVや水素自動車の普及、若年層の車離れなど、社会環境の変化によってビジネスモデルの転換を迫られています。そのため、従来型の燃料供給サービスに依存するだけでは、持続的な経営は難しくなりつつあります。
そこで、多角化経営や複合型の施設づくり、地域密着型サービスの強化、次世代エネルギーへの対応など、多方向からアプローチする戦略が不可欠です。
ビズピットではガソリンスタンドにおける自動車整備業展開に関するご相談を、随時受け付けております。
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