将来を見据えた自動車整備・販売店の経営資源の有効活用方法

一般社団法人日本自動車整備振興会連合会が平成31年に発表した「自動車分解整備業実態調査結果(概要)によると、自動車の整備事業場数は91,605箇所、企業数は72,845社存在します。(※1)

この規模は、現在全国に普及したコンビニエンスストアの店舗数55,841点の約1.5倍であり、自動車の保有台数が減少傾向の一途をたどる市場にとっては、将来を見据え、新たなマーケットやビジネスチャンスを創出する必要があります。

今後の経営戦略を立案する上で重要なのが現在所有する経営資源の有効活用です。

そこで本記事では、車両整備工場や販売店などの有形資産を利用して新たなビジネスチャンスやマネタイズできるビジネスアイデアを検討します。


【目次】
1 経営資源の有効活用事例6選
 1-1 ①自動車運転車両の総合的ピットインスペース
 1-2 ②次世代のモビリティ技術を有するベンチャー企業との連携
 1-3 ③車を通して地域コミュニティの形成の一翼を担う
 1-4 ④TAMIYA(タミヤ)とのコラボレーションで世界に1台を演出
 1-5 ⑤自動車との接点を創出する飲食店の併設
 1-6 ⑥デッドスペースにコーチビルディング(カロッツェリア)した車両の展示
2 まとめ

1.経営資源の有効活用事例6選

近年、自動車業界は従来のガソリン車のみならず、電気自動車やハイブリッドカーの導入、次世代のモビリティの概念である「MaaS」(※2)や「CASE」(※3)など、目覚ましい進歩を遂げています。

しかしその一方で、国内の自動車保有率は減少の一途を辿っており、自動車メーカーのみならず、自動車整備工場や販売店も経営戦略の転換を求められています。

今後自動車業界及び交通インフラが転換期を迎えるなか、どのような戦略を実施すべきなのか?以下では、店舗スペースや技術ノウハウの有効活用といった観点から車両整備工場・販売店が参入可能な新たなビジネスアイデアについて考えましたのでご紹介いたします。

1−1.①自動運転車両の総合的ピットインスペース

今後普及が加速すると見られる自動運転車両や小型電動車両。その需要を見込んで、自動運転車両や小型電動車両の整備、充電、洗車等が行えるスペースを設けることも戦略の一つです。

現在国内に点在する駐車場の多くは施設に併設、もしくは隣接されており、これまでの駐車の概念に沿ったものになります。そのため、自治体が設ける駐車場法に基づいた条例や建物に敷設されることが一般的です。

しかし、自動バレーパーキング等の自動運転技術が確立すれば、車両が停車及び駐車するスペースは既成概念とは異なり、目的の施設から少し離れたスペースに設置される可能性があります。

その際に、御社店舗スペースを自動運転車両や小型電動車両が停車・駐車する総合的なピットインスペースとしての活用を積極化することで、新たなビジネスを創出することが可能です。(※4)

1−2.②次世代のモビリティ技術を有するベンチャー企業との連携

これまでに蓄積した技術や有形資産を活かして、次世代のモビリティ技術を有するベンチャー企業と提携することも一つの手段と言えるでしよう。

現在国内でも、近距離移動のプラットフォームや移動サービスの提供を行うWHILLなど、モビリティの次世代を担うアイデアが誕生しています。しかし、ベンチャー企業は、ビジネスモデルやアイデア性に長けている一方、資金や土地、人材などのリソースに欠けている場合があります。

そのため、これまで車両整備工場や車両販売店が経験した不良が多発する部品や補修部品の交換性等のノウハウをベンチャー企業のモビリティ開発に生かすことも考えられます。

したがって、これまでに蓄積した技術力や人材などの経営資源をベンチャー企業のビジネスと掛け合わせることで相乗効果の期待がもてるでしょう。(※5)

1−3.③車を通して地域コミュニティの形成の一翼を担う

これまで地域コミュニティの形成は、自治体や町内会、特定の目的を持った集団などが主な担い手となっていました。しかし近年では、社会構造の変化やライフスタイルの多様化に伴い、特定の目的や共通項がなくてもコミュニティが形成されています。

そのため、自動車整備場及び販売店が有する自動車や土地といった経営資源も有効活用することで、地域コミュニティの形成の一翼を担うことが可能です。

次節でご紹介するミニ四駆レース等のイベントの開催や災害時の避難場所など、有形資産の提供や貸出を積極的に行うことで、車両整備工場や販売店の主な商圏である店舗周辺2〜3kmの潜在顧客との関係構築等、地域に根付いたビジネスの可能性が高まります。(※6)

1−4.④TAMIYA(タミヤ)とのコラボレーションで世界に1台を演出

ミニ四駆やスケールモデルを販売するホビーメーカーのTAMIYAとタッグを組むのも戦略の一環です。近年多くのブランドやメーカーでは、自社の独自性や強みを商品に反映させるだけでなく、異業種とタッグを組むことで新たな販路及び購買層を獲得しています。

その結果、商品の認知度を高めるだけだなく、自社のブランディングや付加価値も作り出すことが可能です。

今回の提案は、「自動車(四輪)」という共通項を持ったTAMIYAと自動車整備場・販売店ですが、店舗でのミニ四駆レースの開催等、さまざまなアライアンスを模索することで、TAMIYAの売上増加に加えて、自社独自のブランディングの確立や、自社のみでは難しい付加価値を創出することで競合他社との差別化が図れるでしょう。

1−5.⑤自動車との接点を創出する飲食店の併設

自動車整備販売と飲食店。一見、関係性が小さいビジネスに見えますが、両者にはそれぞれのビジネスを補完する要素が存在します。

従来、自動車整備場や販売店には、車の整備や車検、購入などの目的がなければ来店する動機がありませんでした。また、車両の整備においても30分以上の時間を要する事例が多いです。

そのため、カフェやレストラン等を併設することで飲食店の売上に貢献するのはもちろんのこと、これまで来店動機がなかった顧客や次世代の購入層である若年層にもアプローチすることが可能です。(※7)

1−6.⑥デッドスペースにコーチビルディング(カロッツェリア)した車両の展示

車内のデッドスペースに、自社の技術を用いてコーチビルディングを行い、外部へ技術力の高さ及び車の魅力をアピールすることも一つの手段です。

現在、多くの消費者が抱えるニーズの一つに、「他人とは被らないオリジナルのもの」と言った価値観が存在します。これは車にも同じことが言えるでしょう。

現在、車は所有するだけではステータスにならず、いかに自身の価値観やライフスタイルにマッチしているかが重要です。そこで車両販売店からお客様にお届けされる車に技術力という付加価値を加えることで、自社のパフォーマンスを外部に訴求することができます。

まとめ

従来のビジネスモデルである自動車の整備及び販売だけにフォーカスすると視野が狭くなりがちです。しかし、潜在的な価値の発掘や既存の枠組みを変える、もしくはなくすことで、事業領域が拡大する余地があります。

弊社では、これまでに培った車載事業の開発経験を活かし、御社の秀でた能力に応じた事業を開発します。



【引用】
※1
・一般社団法人 日本自動車整備振興会連合会「平成31年度 自動車分解整備業実態調査結果の概要について 」
https://www.jaspa.or.jp/Portals/0/resources/jaspahp/member/data/pdf/H31jittaityousa.pdf

※2
MaaS(Mobility as a Service)…さまざまな交通インフラや輸送サービスをICTを活用してクラウド化し、全ての交通手段によるモビリティを1つのサービスと捉え、シームレスにつなぐ新たな移動の概念
・国土交通省「MaaS (モビリティ・アズ・ア・サービス) について」
https://www.mlit.go.jp/pri/kikanshi/pdf/2018/69_1.pdf
・みずほ情報総研レポート「MaaS の現状と、わが国で MaaS を導入する上での重要な2つの視点」
https://www.mizuho-ir.co.jp/publication/report/2019/pdf/mhir18_maas.pdf

※3
CASE…Connected(つながる) 、Autonomous(自動運転)、Share&Services(シェア/サービス化)、 Electric(電動化)の4つの頭文字をとったワード。現在の自動車を製造・販売するメーカーからモビリティのサービスを提供するプロバイダへと変わるという戦略の方向性を表す言葉
・自動運転LAB「CASEとは? 何の略? 意味は? コネクテッド、自動運転、シェア&サービス、電動化」
https://jidounten-lab.com/y-case-connected-autonomous-shared-electric
・トヨタ自動車のクルマ情報サイト‐GAZOO「注目が集まる「CASE」「MaaS」って何? それぞれどう違うの? 」
https://gazoo.com/column/daily/19/11/18/

※4
・国土交通省自動車局「令和2年度 自動車局関係予算決定概要」
https://www.mlit.go.jp/page/content/001321112.pdf
・国土交通省「『自動バレーパーキング機能 実証実験』を開催いたします」
https://www.mlit.go.jp/report/press/jidosha07_hh_000288.html
・国土交通省「自動運転の実現に向けた新たな取り組みについて」
https://www.mlit.go.jp/common/001266400.pdf
・ニッセイ基礎研究所「駐車場とまちの未来-自動運転の時代に駐車場は社会に必要なインフラとなり得るか?」
https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=61749?pno=2&site=nli

※5
・Telescope Magazine「夢の完全自動運転に向けて、一歩先んじるグーグル」大手IT企業の参入によって変わる次世代モビリティ
https://www.tel.co.jp/museum/magazine/mobility/141014_topics_03/02.html
・自動運転LAB「日本の自動運転ベンチャー・スタートアップ12社まとめ AIやシステムを研究開発、実証実験に取り組む」
https://jidounten-lab.com/y_5256

※6
・自動車局整備課「自動車整備事業の将来展望に向けたビジネスモデルに関する事例調査について」
https://www.mlit.go.jp/common/001079923.pdf

※7
・楽天Car車検「ユニークな整備工場レポート パンケーキの食べられる車検場 横浜に早くも3店舗目がオープン」
https://shaken.rakuten.co.jp/special/vol002/002.html

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