ガソリンスタンド(SS店)が整備工場になるための実務ガイド

ガソリンスタンド(SS店)が整備工場になるための実務ガイド

若者の車離れや車両の燃費向上、さらにはハイブリッド車やEVシフトの加速により、ガソリンスタンド(SS店)を取り巻く経営環境は厳しさを増しています。従来の油売利益だけに依存するビジネスモデルでは、長期的な安定経営を維持することが困難な時代を迎えました。

このような背景から、新たな収益の柱として自動車整備事業への本格参入を検討する経営者が増えています。自前の整備工場を持つことで、給油に訪れる既存顧客に対して車検やメンテナンスを直接提案できるようになり、利益率の高いビジネスモデルを確立することが可能です。

本記事では、ガソリンスタンド(SS店)が整備工場へとステップアップするために不可欠な「認証」の必要性や取得要件、具体的な手続きの流れを詳しく解説します。

関連情報:【ガソリンスタンドの生き残り策】現状とこれからの戦略

目次

ガソリンスタンド(SS店)が最初に目指すべき整備工場

SSが目指すべき整備工場の種類とステップアップルート図解

自動車の整備工場には、大きく分けて「認証工場」と、車検の検査まで自社で完結できる「指定工場」の2種類が存在します。

ガソリンスタンド(SS店)が整備工場化を目指す場合、まずは認証工場の取得からスタートし、段階的に指定工場へのステップアップを目指すルートが現実的です。

認証を受けた整備工場は「認証工場」と呼ばれ、「自動車整備工場」に分類されるようになり、はじめて自動車の整備事業を行うことができるようになります。

まずは認証を取得し、ガソリンスタンド兼自動車整備工場となり、給油等で来訪する既存顧客の車検や整備の需要を着実に取り込んでいくことが先決です。

【認証工場(自動車特定整備事業者)】

自動車の特定整備事業を行うことを地方運輸局長から認められた整備工場です。分解整備や特定整備(電子制御装置整備など)を行えますが、車検を行う場合は、1台1台運輸支局に持ち込む必要があります(要持ち込み検査)。

【指定工場】

認証工場としての資格をすべて有した上で、さらに厳しい要件をクリアして国から指定を受けた、いわば認証工場の上位に位置する整備工場です。自社内に検査ラインを持ち、車検の最終検査までを一貫して行うことができます。

整備工場(認証工場)になるための4つの要件

ガソリンスタンド(SS店)が申請を行い、地方運輸局長から特定整備事業の認証を受けるためには、国が定める厳格な基準をクリアしなければなりません。

この認証基準は大きく4つの要素で構成されています。 

1. 人員に関する基準

工場の規模や作業員の人数に応じて、資格を持った自動車整備士を適切に配置する必要があります。

【2人以上の従業員】

特定整備の認証を取得するには、整備業務に直接従事する従業員を常時2人以上確保しなければなりません。

給油スタッフや事務員とは原則として区別して人員を算定する必要があります。

もしこれらの業務を兼務させる場合には、管轄する運輸支局などの指導や基準に則って適切に判断することが求められます。 

【1人以上の二級整備士】

特定整備に従事する従業員のうち、最低でも1人は国家資格である一級自動車整備士または二級自動車整備士(ガソリンまたはジーゼル)の資格を保有している必要があります。

また、特定整備に従事する従業員全体の人数に応じて必要となる整備士の数は増えていき、従業員が5人以上となる場合は2人以上の資格保持者を確保しなければならないなど、一定の割合以上の整備士を配置することが義務付けられています。

自動車特定整備に従事する人の数
(整備主任者含む)
必要となる資格保持者数
2人から4人まで1人
5人から8人まで2人
9人から12人まで3人

【1人以上の整備主任者】 

特定整備を行う事業場ごとに全体の整備業務を統括する「整備主任者」を選任し、管轄の運輸支局長へ届け出ることが義務付けられています。

この整備主任者に選任されるためには一級または二級の自動車整備士資格が必須です。さらに、特定整備のうち電子制御装置整備を取り扱う事業場の場合、二級整備士を整備主任者とするには原則として国が実施する「電子制御装置整備の整備主任者等資格取得講習」を修了しなければなりません。

2. 作業場に関する基準

認証工場になるには以下の作業場が必要です。

  • 車両整備作業場
  • 点検作業場
  • 部品整備作業場
  • 車両置場
  • 電子制御装置点検整備作業場(電子制御装置整備を行う場合)

これらの作業場は、対象とする自動車や装置の種類によって法的な寸法や面積の基準が細かく設定されています。

例えば、乗用車の原動機を整備する認証工場を目指す場合、主となる「車両整備作業場」には間口が4m以上、奥行きが8m以上という具体的な最低基準が設けられています。

当然ながら、対象とする車両が大型化すればするほど、より広大な車両整備作業場を確保しなければなりません。

また、面積や寸法の規定以外にも、満たすべき重要な基準がいくつか存在します。

【天井の高さ】

整備作業を行うのに十分な高さを有していること。

【床面の構造】

屋内作業場の床面は、平滑に舗装されていること。

【配置の条件】

屋内作業場や車両置場は同一敷地内にあること。

※詳しくは国土交通省発行の【「自動車整備工場」の経営を希望される皆様へ(PDF)】をご確認ください。

ガソリンスタンド(SS店)の作業場は実際に認められるか

近年の多くのガソリンスタンド(SS店)には、乗用車1台分程度のリフトを備えた作業スペースが設けられています。

しかし、そのスペースがそのまま国の認証基準を満たす作業場として認められるかどうかは、事前に慎重に確認する必要があります。

もし基準を満たさずに認められない場合は、作業場の大規模な改築などが生じ、初期費用が大きく跳ね上がってしまうためです。

一般的に、対象を乗用車のみに限定した整備を行う認証工場を目指す場合、多くの店舗に既存の作業スペースがあれば、主となる「車両整備作業場」の寸法基準としては認められる可能性が十分にあります。

ただし、認証を取得するためには車両整備作業場だけでなく、「点検作業場」や「部品整備作業場」、「車両置場」といった複数のスペースを別途適切に確保しなければならない点には注意が必要です。

3. 作業機械等(工具・テスター)に関する基準

対象の自動車や装置の種類に応じ、それぞれに対応した適切な能力を持つ点検装置や工具を備える必要があります。

【作業機械・工具】

プレス、エア・コンプレッサ、ジャッキ、バイス、各種プーラ、部品洗浄槽など。

【作業計器・点検計器】

ノギス、トルク・レンチ、サーキット・テスタ、コンプレッション・ゲージ、整備用スキャンツールなど。

※詳しくは国土交通省発行の【「自動車整備工場」の経営を希望される皆様へ(PDF)】をご確認ください。

4. 申請者の適格性(欠格事由)

法令(道路運送車両法第80条)に基づき、申請者が次の欠格事由に該当していないことが求められます。

  • 1年以上の懲役・禁錮刑を受け、執行終了から2年を経過していない者
  • 過去に自動車特定整備事業の認証を取り消され、取消日から2年を経過していない者(法人の場合は、取消に係る聴聞の公示日前60日以内に役員だった者も含む)
  • 法人の役員のうちに、上記に該当する者がいる場合

最大の壁は整備士の確保

ガソリンスタンド(SS店)が整備工場化を果たす上で、クリアするのが最も難しい最大の壁が「整備士資格保有者の確保」です。設備や作業場といった物理的な要件は資金を投入して改築することで解決できますが、人材の確保ばかりは一朝一夕にはいきません。

近年、自動車整備業界全体で資格を持った優秀な人材の採用市場は極めて激しい競争状態にあります。

認証工場の取得には、実務を統括する一級または二級の資格を持つ整備主任者が必須となるだけでなく、従事する従業員の数に応じた一定割合の有資格者を常時配置しなければなりません。

自社内で未資格のスタッフを一から育成して国家試験に合格させることは事実上難く、外部からの即戦力の採用、もしくは計画的な資格取得支援の体制づくりを早期から進めておくことが、整備工場化への成否を分ける最大の鍵です。

スタッフが資格を取得できない理由

既存のスタッフを育成して整備士資格を取得させようと考える際、見落としてはならない大きな落とし穴があります。

それは、ガソリンスタンド(SS店)での日常業務が、国家試験の受験に必須となる「実務経験」として認められないケースが多いという点です。

自動車整備士の受験資格を得るためには、国が定める分解整備などの実務に直接従事した期間が求められます。

しかし、一般的なガソリンスタンドで行われる給油や洗車、軽度な消耗品の交換といったスタンド業務だけでは、法的な実務経験の要件を満たさないと判断されてしまう可能性が高く、せっかく数年間働いて講習に通おうとしても、スタートラインである受験条件の段階ではじかれてしまうリスクがあるのです。

自社の店舗で行っている作業内容やスタッフの勤務形態が、正式な実務経験としてカウントされるかどうかは、個別の状況によって細かく判断されます。取り返しのつかない事態を防ぐためにも、スタッフの資格取得を計画する前に、必ず事前に地元の自動車整備振興会や管轄の運輸支局へ詳細を確認し、直接指導を仰ぐようにしてください。

ガソリンスタンド(SS店)店が整備工場になるための具体的なステップ

1.整備士の確保

整備士資格保有者の確保ができなければ、絶対に認証を取得できません。他の条件と違って、基準も明確であるため、まずは整備士の確保の準備をすることが最優先です。

2.専門家への相談

人員以外の基準については、専門家でないと難しいことも多いため、最寄りの「自動車整備振興会」という業界最大の団体に相談することが一般的です。

ただし、支援を受けるには自動車整備振興会の有料会員になることが条件となり、30万円程度の費用がかかります。

他には、整備業界に知見のある行政書士などの専門家に相談する方法もありますが、いずれも数十万円程度の費用が発生します。

3.必要書類の取得と申請書作成

専門家の指導のもと、住民票や登記簿謄本等、多くの添付書類を揃えて申請書を作成します。

4.申請・現地調査

管轄の運輸支局へ申請書を提出後、担当官による現地の確認審査(実地審査)が行われます。

5.認証証交付

審査をクリアし、補正対応等が終われば正式に認証が下り、認証書を受け取ります。

取得までの期間は3ヶ月程度

人員や設備などの必要な条件がすべて揃っており、さらに行政書士や整備振興会といった専門家に相談しながら手続きを進める場合であっても、事前の相談から最終的な認証取得に至るまでには一般的に3ヶ月程度の期間を要する可能性が高いです。 

振興会や専門家の力を借りないで認証を取得する方法

認証取得における多種多様な手続きについても、現在は外部の専門家に頼ることなく、事業者自身が主体となって進めるケースが増えています。

管轄の運輸支局を直接訪問し、窓口の担当官から法的な基準や必要書類に関する指導を仰ぎながら、自社で申請手続きを完結させることは十分に可能です。

社内に公的機関への申請や行政手続きを得意とするスタッフが在籍しており、かつ日々の業務の中で手続きに割く時間的な余裕が十分に確保できるのであれば、外部に委託せず事業者自身で新規の認証取得ができれば、初期費用を抑えることができます。

まとめ

ガソリンスタンド(SS店)の整備工場化は、激変する自動車業界を生き抜き、油売利益に依存しない高収益体質へと転換するための強力な経営戦略です。

認証工場の取得には、人員・作業場・設備・適格性という4つの厳格な基準をクリアする必要があり、なかでも「実務経験の壁」を考慮した整備士の確保が最大の鍵になるでしょう。取得には専門家の力を借りる方法から自社で申請するルートまで選択肢があり、一般的に3ヶ月程度の期間を要します。

まずは自社のリソースや既存の作業スペースを丁寧に棚卸しし、未来の収益柱となる自動車整備工場への第一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。

関連情報:【ガソリンスタンドの生き残り策】現状とこれからの戦略

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