
令和の自動車整備業界は大きな転換期にあります。約5.9兆円の市場規模ながら、新車販売の減少はディーラーに変革を促し、収益の多角化と店舗再編が進んでいます。※1
しかし、ディーラーの整備部門は業務過多となり、「整備難民」という問題も顕在化しています。
これは、民間整備工場にとって顧客獲得の機会であり、デジタル化による業務効率化と信頼性向上が成長の鍵です。本稿では、この変革期における市場とディーラーの動向を分析し、民間整備工場がチャンスを生かす戦略を探ります。
自動車整備市場の現状
自動車整備業界の市場規模は、近年回復傾向にあります。
令和6年度の日整連の調査によれば、自動車整備業界の市場規模は約6.25兆円と報告されており、近年は3年連続で微増を続けています。※1
長期的にみると、平成7年度の約6.6兆円をピークに一時は減少していましたが、ここ数年は再び上昇しています。この背景には、車両保有台数の微増や、新車販売の低迷による低年式車の増加など、整備ニーズの高まりがあると考えられます。※1
しかしながら、将来については保有台数の減少や自動運転による事故の減少などの影響が考えられ、予測は難しく楽観できない状況です。
また、新車販売に目を向けると、平成25年の約570万台から令和4年度には約470万台へと大きく減少し、その落ち込みは約18%にのぼります。このような状況から、ディーラー各社は新車販売頼みのビジネスモデルを見直し、中古車販売やカーシェア、自動車保険の提供など、サービスの多角化を進めています。※2
この流れは、中小整備工場にも大きな影響と、経営のヒントを与えてくれます。
低年式車の増加は、今後ますます整備や車検、メンテナンスの需要を生むことにつながります。
さらに、ディーラーが多角化を進める中、地域密着で信頼を築ける中小整備工場は、パーソナルな対応力や技術力を生かして差別化できる強みがあります。
つまり、新車販売が低迷し自動車整備業界が回復傾向にある今こそ、整備工場にとってはチャンスの時期なのです。時代の流れを読み、従来の整備サービスに加えて、自動車関連の周辺事業を視野に入れることで、安定した経営と成長を目指すことが可能です。
ディーラーの再編
現在のディーラー業界のひっ迫した状況は、民間整備工場にとって新たな顧客を取り込む絶好のチャンスです。
2020年以降、全国で40社以上のディーラーが約200店舗の営業を停止しているというデータがあり、ディーラーの店舗統廃合が加速しています。特に2023年度だけでも96店舗が閉鎖されており、わずか1年で100店舗近い営業停止が発生しています。
その背景には、2020年5月にトヨタ自動車が導入した「全車種併売制度」の影響が大きく、従来の車種による販売店の役割がなくなり、ディーラー間の競争が激化したことが挙げられます。加えて、他メーカーも経営資源の効率化を目的に、店舗の集約や再編を進めており、この動きは今後もしばらく続くと予測されています。
店舗の統廃合が進む一方で、ディーラーの整備部門の業務量は年々増加しています。顧客の集中、整備士不足、頻発するリコール対応、厳格な労務管理、多様化する顧客ニーズなど、複数の要因が複雑に絡み合い、業務過多となっているディーラーが多くあります。
その結果、ディーラーでは顧客からの依頼に十分に応えきれず、整備の受け入れ体制が限界に近づいています。
こうした状況を受けて、2024年にはトヨタ自動車は「正規ディーラー以外の整備工場にも、リコールなどの保証整備作業を委託する」という新たな取り組みを打ち出し、すでに一部で運用が始まっているようです。これは正に、ディーラー単体では処理できない入庫量に直面していることを物語っています。
しかしながら、現時点では、ディーラーの業務過多が民間整備工場の売上増加に直結しているとは言い切れません。
業態別の整備売上高の推移を見ると、ディーラーと民間工場の売上は並行して推移しており、明確な顧客流出の動きは確認できません。
この状況は民間整備工場にとって、積極的な行動を起こし、潜在的な顧客を獲得するための重要な転換期と言えます。ディーラーのひっ迫した現状は、これまでディーラーに流れていた顧客が、必ずしも満足なサービスを受けられていない可能性を示唆しています。
ディーラーが厳しい状況にある今こそ、民間の整備工場にとって、これまで以上に顧客を獲得できる大きな機会と言えるでしょう。
社会問題「整備難民」

整備難民の増加という社会問題は、中小規模の整備工場にとって、大きな成長機会です。ディーラーでは対応しきれないユーザーを積極的に取り込むことができれば、地域における信頼の構築や新規顧客の獲得につながるからです。
近年、「整備難民」という言葉が注目を集めています。これは、自動車の整備をどこに依頼すればよいか分からず、適切なメンテナンスを受けられない状況にある人々が増えている問題を指します。
具体的には以下のようなケースが考えられます。
- 近くに整備工場がない
- ディーラーから「他の予約でいっぱい」という理由で入庫を断られた
- 民間整備工場から「技術的に対応できない」という理由で入庫を断られた
このような中、国土交通省も整備難民の増加を社会問題として認識し、対策を検討し始めています。なぜなら、自動車整備が受けられない状態は、単に個人の不便にとどまらず、交通安全のリスクや地域のインフラ機能の低下にまで影響を及ぼすからです。
整備難民の主な原因は以下の通りです。
- 整備士の人手不足:高齢化や若手不足により、人材が足りていない。
- ディーラーの統廃合と業務集中:店舗数減少で整備依頼が集中し、対応が難しくなっている。
- 地域格差:都市部は予約困難、地方では整備工場がない空白地帯がある。
- 技術対応の遅れ:EVや先進車両への対応ができない整備工場もあり、受け入れを断るケースが増加。
要約すると、「整備する側の不足」と「整備される側の多様なニーズ」が重なり、整備難民が生まれています。
整備難民の存在は、単なる業界の課題ではなく、民間整備工場が成長のきっかけをつかむ絶好のタイミングでもあります。
ただし、従来のやり方だけでは対応しきれない場面も出てきます。今後は、業務の効率化や技術力の向上に加えて、オンライン予約や顧客管理のシステム化といった、ディーラーでは当たり前のデジタル技術の活用が求められます。
変化を恐れず、今こそ新しい一歩を踏み出すことで、自社の可能性を大きく広げることができるでしょう。
民間整備工場への商機と役割
上記のような現在の整備業界の状況を踏まえると、民間整備工場はディーラーの補完的な存在として、そして整備難民問題を解決する社会的インフラとして、これまで以上に重要な役割を担うことが必要であり、同時に、社会からも期待されています。
それでは、民間整備工場の商機はどこにあるのでしょうか。
1. 整備難民の受け皿になることによる新規顧客の獲得
ディーラーが整備依頼を受けきれなくなっている今、対応力のある民間整備工場にはユーザーが流れてきています。
とくに、「近くに整備工場がない」「ディーラーに断られた」「先進車両に対応できる工場が少ない」といった声に応えることで、他社では拾いきれないニーズを獲得できます。
2. ディーラーとの連携・外注整備業務の受託
トヨタが2024年から正規ディーラー外の整備工場にリコール作業を委託し始めたように、メーカー・ディーラーの外注先になるチャンスが広がっています。
この動きが他社にも波及すれば、安定した整備業務の受託が見込めます。
3. 低年式車・中古車市場の拡大による整備ニーズ増
新車販売が減少し、中古車・低年式車の保有率が上がっている今、車検・修理・メンテナンスの頻度が上がることは明らかです。
これは中小整備工場が得意とする領域であり、長期的に見ても確実な市場です。
4. デジタル化による業務効率アップ&高付加価値サービスの展開
オンライン予約、顧客管理システム、LINE連携などを導入することで、限られた人数でも多くの顧客に対応できる体制を整えられるだけでなく、
点検通知やアフターサービスの案内といった**「かかりつけ整備工場」としての信頼構築**にもつながります。
5. 地域密着型サービスによるリピーター獲得と紹介
ディーラーの撤退や店舗減少により、地域に根ざした整備工場の価値が相対的に上昇しています。
親身な対応、フットワークの軽さを武器にすれば、口コミや紹介での広がりが期待できます。
まとめると、整備の担い手が減っている今、担える体制を持っている民間整備工場こそが最も顧客に近い存在になれます。
あとは、それをどう伝えるか、どう仕組みとして受け入れられるようにするか。この視点を持つことが、商機を確実に掴む鍵です。
まとめ
令和の自動車整備業界は、ディーラーの再編という大きな転換期を迎えています。新車販売の減少から、ディーラーは収益の多角化と店舗再編を進めていますが、その結果、整備部門では業務過多となり、「整備難民」という新たな社会問題も顕在化しています。
しかし、これは地域に根差す中小規模の整備工場にとって、これまで以上に重要な役割を担い、商機を拡大する絶好の機会です。ディーラーでは対応しきれないユーザーの受け皿となることで新規顧客を獲得し、トヨタ自動車のリコール作業委託に見られるように、ディーラーとの連携を強化することも可能です。
また、低年式車・中古車市場の拡大は、車検や修理といった整備ニーズの増加を意味します。デジタル化による業務効率化を図り、オンライン予約や顧客管理システムなどを導入することで、より多くの顧客に対応できる体制を構築し、「かかりつけ整備工場」としての信頼を築くことが重要です。
民間の整備工場は、地域密着型の強みを生かし、親身な対応とフットワークの軽さでリピーターを増やし、口コミや紹介による顧客拡大を目指しましょう。整備の担い手が減少している今こそ、お客様に寄り添うことのできる民間整備工場が、地域社会にとって不可欠な存在となるチャンスです。
【引用】
※1
令和6年度版 自動車整備白書
https://www.jaspa.or.jp/association/publication/book_thaku.html
※2
日本自動車販売協会連合会
https://www.jada.or.jp/
全国軽自動車協会連合会
https://www.zenkeijikyo.or.jp/









