自動車整備工場が利益を伸ばすには、単に整備・修理技術を高めるだけでなく、マーケティング視点を取り入れた経営が欠かせません。少子高齢化や景気の影響により、顧客がものやサービスを購入する際のハードルが高まっている今こそ、「顧客単価」「顧客満足度」「サービス設計」「提案件数」といった利益を生み出すポイントを正しく捉えることが重要です。また、ターゲット分析やプロモーションなどの具体的な戦略を実践することで、自社工場の強みを生かしながら新たな収益源を創出できます。本記事では、自動車整備工場が自社に合ったマーケティング戦略を構築・実行するためのポイントを、実際にV字回復を成し遂げたUSJの成功事例を参考に解説します。ぜひ、自社の再開発や収益アップのヒントとしてお役立てください。
自動車整備工場の利益につながる要素

自動車整備工場が利益を上げようとする場合、どういった要素が利益につながるのか理解しておくことで、マーケティング戦略を立てやすくなります。自動車整備工場の利益につながる主な要素には以下のようなものがあります。
・顧客単価
・顧客満足度
・サービス設計
・提案件数
顧客単価は、修理や整備にセットメニューをつけるなどして1人あたりの単価を上げることです。また、顧客満足度は、サービスをとおして顧客に満足してもらうことを意味します。顧客満足度が高ければリピートにもつながるでしょう。サービス設計は、どのようなサービスを提供することで満足してもらえるか考えることです。そして、提案件数は、顧客に自社に対する興味を持ってもらうきっかけづくりを行うことです。例えば、ホームページで情報提供する、SNSで情報発信をするといったことがあげられます。
自動車整備工場の利益アップにはマーケティングも欠かせない
自動車整備工場の利益アップにはマーケティングが必要不可欠です。マーケティングとは、自社の商品やサービスが売れる仕組み作りを推進することです。マーケティング活動をとおして、商品、サービスが顧客に認知され、自社に興味を持った人の実際の購入・利用につながります。例えば、広告を出稿する、キャンペーンを展開するといったことはもちろん、顧客のニーズを市場調査などから把握し、サービスの改善に努めるといったことが挙げられるでしょう。
自動車の整備工場にもマーケティングが求められる理由
自動車整備工場にマーケティングが求められる背景には、少子高齢化や景気の影響による経済活動の停滞が挙げられます。顧客が簡単にものやサービスを買わなくなっていることに加え、実店舗・オンラインに関係なく昨今では多種多様な商品、サービスが市場に出回っていることもあって、ただ広告を出稿するだけでは簡単には選んでもらえなくなりました。このような背景もあり、自社の強みや弱みを把握し、勝負する市場を決め、ターゲットを設定し、販売方法を決めるといったマーケティングが必要不可欠となります。
自動車整備工場がマーケティングを行うメリット
ここでは、自動車整備工場がマーケティングを行うことでどういったメリットが得られるのか解説します。マーケティングが大切なのはなんとなく分かっているけど、具体的にどういったメリットがあるのか知りたい、メリットを社員に周知してマーケティングに取り組んでいきたいといった方はぜひ参考にしてください。
ブランディング強化
マーケティングは、自社のブランディング強化につながります。例えば、他社にはない自社ならではのサービスを打ち出せれば「●●といえばこの会社」というイメージが定着し、自社のブランディングにつながるでしょう。顧客がブランドのファンになってくれれば、リピート率向上が期待できるほか、SNSや口コミサイトでポジティブな意見を投稿・拡散してくれるかもしれません。そうなれば、さらに多くの人に自社の存在や特徴を知ってもらえ、さらなるブランディング強化につながります。
自社の成長促進
市場調査を入念に行い、適切なマーケティング戦略を実行することで、市場への適切なアプローチが可能となり、顧客のニーズに沿ったサービスの提供が可能です。ニーズを満たせるサービスを提供できれば、売り上げアップも期待でき、ひいては会社の成長を促すことにもつながるでしょう。
収益源の増加
市場調査の結果、新たな顧客やブルーオーシャンとなる事業の発見、新規市場の開拓などができる可能性があります。そして、そのような顧客・事業・市場に進出することで収益源が増える可能性があるでしょう。例えば、特定の層に特化したサービスを提供する、自動車整備に関連する事業を展開し、付加価値を提供できるようにするといったことが考えられます。
自社の強みを生かした経営
マーケティングは、自社の強みを生かした経営が可能です。マーケティングに取り組むにあたっては、市場調査などをとおして自社を取り巻く環境を把握する必要があります。例えば、顧客はどういったことを求めているのか、競合他社はどういったサービスを提供しているのか、自社の強みと弱み、競合他社の強みと弱みは何であるかといったことを把握することで、自社が他社に勝っている部分が見えてきます。それに基づいてマーケティング戦略を立案することで、自社の強みを生かした経営が可能になるでしょう。
マーケティングに必要な要素
ここではマーケティングに必要な要素を紹介します。具体的にどのようなことが必要なのか、ぜひ参考にしてください。
市場分析
マーケティングに取り組むにあたっては、まず市場分析を行う必要があります。市場分析とは、簡単にいうと顧客が求めているものを把握するための作業です。市場調査や統計データ、競合他社の情報などを通して、顧客が求めているものを明確にすることで、具体的な戦略立案が可能です。
ターゲットの策定
市場分析をとおして得たデータや情報を基に、自社のターゲットとなる顧客層を決定します。誰に、どのようなサービス、価値を提供するのかといった要素が決まることで、その後の広告の出稿先や営業先も変わってくるため、ターゲットの明確化は非常に重要なステップです。例えば、20代の車所有者をターゲットにした場合、新聞広告に出向しても新聞を読む習慣がない20代には、十分な効果は期待できないでしょう。ターゲットが決まることで、ターゲットを想定した戦略立案が可能です。
戦略の策定
ターゲットが決まったら具体的な戦略策定に移ります。ターゲットに対して、どのようなサービスを、どのような手段で届けるのかを検討します。先述のとおり、ターゲット層によって効果的な広告出向先や魅力的なサービスは異なるため、ここまで収集した情報や調査結果などを踏まえつつ戦略を立てましょう。
効果検証
マーケティングでは、戦略を立てて実行して終わりではありません。立案した施策を実施した後は効果検証を行い、マーケティング活動全体の振り返りをします。例えば、実際に売り上げアップにつながっているのか、マーケティングの費用対効果はどうだったのか、次のマーケティング戦略立案に向けての反省点はなんなのかといった点を整理して、次に生かせるようにしてください。
マーケティングで活用できるフレームワーク
マーケティングで市場分析をする際には、フレームワークの活用がおすすめです。ここではマーケティングで役立つおすすめのフレームワークを紹介します。
PEST分析
PEST分析とは、外部要因が自社に与える影響を検討するフレームワークです。PESTは、以下の4つの要素で構成されています。
・政治(Politics)
・経済(Economy)
・社会(Society)
・技術(Technology)
例えば、政治で大きな変化が起こる、景気が後退する、技術的な発展が起こるなどすると、自社の事業にも影響が及びます。具体的な戦略立案に活用できるものではありませんが、自社を取り巻く環境を分析することで、戦略の方向性を定められるでしょう。
3C分析
3C分析は、PEST分析同様自社を取り巻く環境を分析するフレームワークです。ただし、PEST分析とは異なり、以下の3つのCの観点から分析します。
・市場・顧客(Customer)
・競合(Competitor)
・自社(Company)
PEST分析は政治や経済、社会、技術と膨大なデータソースを有する比較的大きな要因を分析しますが、3C分析はより自社を取り巻く環境にフォーカスしている点が特徴です。自社のサービス内容や強み、競合他社の動向、市場規模や動向などを把握することで、市場における自社のポジションが見えてきます。それに基づいて、戦略を立てることができます。
SWOT分析
SWOT分析は、内部環境と外部環境という2つの方向から自社の状況を把握するフレームワークです。内部環境と外部環境には、それぞれ2つの要素が含まれています。
内部環境
- 強み(Strength)
- 弱み(Weakness)
外部環境
- 機会(Opportunity)
- 脅威(Threat)
強み、弱み、機会、脅威の4つの英単語の頭文字をとってSWOT分析と呼ばれています。SWOT分析では、以下のようなクロス表を用意して、4つの要素を掛け合わせながら現状を洗い出していきます。
機会 | 脅威 | |
強み | 強み×機会 | 強み×脅威 |
弱み | 弱み×機会 | 弱み×脅威 |
これらの要素を検討することで「強みを生かしつつビジネスの機会を得るにはどうすればいいか」「弱みから脅威になりそうな要因を取り除くには何が必要か」といったことを考えましょう。
USJのV字回復から学ぶ自動車整備工場の再開発

マーケティングは、企業の売り上げアップ、顧客獲得に欠かせないものですが、実際にやってみるとなると、何からすればいいのか分からない、どのようにすればいいのか分からないという人も多いでしょう。
このような時に参考になるのが、マーケティング戦略によってV字回復を果たしたUSJの事例です。
USJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)は、一時経営が危ぶまれる状態となりましたが、マーケターの森岡毅氏の入社をきっかけに復活を果たしました。森岡氏は、消費者目線に立ち、具体的なターゲット設定を行うなど、徹底したマーケティング戦略を立て、入場者数を大幅に伸ばしました。
USJと自動車整備工場は全く異なるビジネスですが、そのマーケティングの視点は参考になるものが少なくありません。
USJのマーケティングが成功した理由
ここではなぜUSJのマーケティングが成功したのか、その理由を紹介します。どのような思考を持ち、何に取り組んだのか、自動車整備工場にも役立つ部分であるため、ぜひ参考にしてください。
消費者視点に立った思考
USJのマーケティングの特徴の一つが、消費者視点に立って考え続けたことです。マーケティングを担当した森岡氏は、実際に消費者目線でUSJのアトラクションなどを自分で体験し、問題点を洗い出した上でどうすれば消費者にとってプラスになるのか、と改善策を考えています。このような取り組みが、映画を中心としたテーマパークから、現在のように映画以外にも漫画やゲームなど幅広いジャンルを取り扱うテーマパークへの変貌につながったといえます。
消費者視点に立つことは、多くの企業にとって当たり前のことのように思えるかもしれませんが、実際には、消費者が求めるもの、必要としているものと企業が考えている商品・サービスが一致していないケースは少なくありません。マーケティングに取り組む方は、今一度消費者視点に立っているかどうかを見直してみてください。
ターゲティングの具体化
ターゲットを具体的にしたこともUSJのV字回復につながったとされています。例えば、森岡氏は、予算を確保しにくい状況にあったUSJで、若い女性をターゲットに低予算でできるハロウィーン・ホラーナイトを実施しました。イベントは、気兼ねなく叫べる環境が用意され、日々のストレスや鬱憤を発散できるという狙いが当たり、40万人の集客に成功しています。ターゲットを絞ると、売り上げも減るのでは?と考える人もいるかもしれませんが、絞るからこそ、その特定の層に向けたサービスを徹底して考えられ、より質の高いサービスの提供が可能です。
プロモーション活動
プロモーション活動もマーケティング戦略を成功に導く要素の一つです。例えば、USJではマルチチャネルに展開することで、幅広い層にアプローチし、USJの魅力を広めようとしました。テレビや新聞といったマスメディアの広告はもちろん、XやInstagramといったSNSによる双方向でのコミュニケーションや企業などとコラボレーションすることで情報を拡散し、認知拡大を図っています。
商品戦略
商品戦略を展開していることも、USJのマーケティングの特徴の一つです。USJでは、来場者が映画や漫画、ゲームなどのキャラクターの世界に入り込むことで、その世界観を楽しみ、感情を変化させるという商品価値を提供しています。ただ単にグッズを販売するのではなく、日常生活では味わないような世界観や感情を提供することでUSJのファンが生まれ、顧客が「また行きたい」と思うような状況を作り出しています。
リピーターを獲得する
リピーターをいかにして獲得するかは、マーケティング戦略において重要なポイントです。USJでは、森岡氏が入社した時と比べるとチケット価格は上昇していますが、それでも訪れるリピーターが少なくありません。なぜリピーターが多いのかというと、USJが提供するサービスや商品が来場者の期待値を超えているためです。「チケットが高くても訪れたい」と思えるような高い価値を提供することで、来場者はリピーターとなります。そして、その高い価値を提供するためには、ユーザーニーズの徹底した把握や詳細なターゲット設定が鍵を握ります。
USJのV字回復でも用いられたフレームワーク
先ほどマーケティングに使用できるフレームワークを紹介しましたが、USJのV字回復に貢献した森岡氏は、戦況分析、目的設定、ゴール設定、戦略決定、戦術決定というマーケティングのフレームワークを設定しています。ここではそれぞれの要素について解説します。
戦況分析
マーケティングに取り組む場合、戦況分析から自社を取り巻く状況の把握は必要不可欠です。顧客、競合、自社の3Cの観点から戦況を分析することで、顧客のニーズに対して、自社が有利なポイントはどこなのかを明らかにしていきます。有利なポイントが分かれば、自社が戦うべきポジションも見えてくるため、そこにリソースを割きながら施策を展開します。
目的設定
戦況を踏まえ、自社が戦うべきポジションが明確になったら、次はそこで何を達成するのか、目的を設定します。目的設定でポイントとなるのは、簡単に達成できるものではなく、できるかできないか分からないギリギリのラインの目的を設定することです。目的は、分かりやすくて従業員とも共有しやすく、かつ魅力的なものでなければなりません。例えば、USJの再建当時は来場者数1,100万人を目標に設定していました。数値という分かりやすい指標に加え、過去に実現できていた数値にすることで、努力すれば到達できるという印象を従業員に持たせることができます。
ゴール設定
次に、マーケティングの目標、つまりゴールとなるターゲットの設定を行います。ターゲットといっても、その対象は無数に存在するため、年齢や性別、さらには趣味、嗜好、家族構成や年収、職業など細かいペルソナを設定することが大切です。従業員の誰もがターゲットを説明できるくらい具体的にすることがポイントです。ターゲットを設定した上でさらに消費者視点による分析をすることが重要です。
戦略設定
戦略設定は、具体的にどのような商品やサービスを提供するのか、そしてそれがどのような価値を提供できるのかを決めることです。例えば、USJであれば、ただ単にグッズやアトラクションを提供するのではなく、USJでの体験をとおして得られる感情の変化という価値が戦略に設定されています。
戦術設定
戦術設定では、商品やサービスの具体的な売り方を決定します。戦術設定においては、4P分析のようなフレームワークの活用がおすすめです。4P分析は「Product(商品)」「Price(価格)」「Place(流通)」「Promotion(販売促進)」という4つのPに基づいて、戦略を立案するフレームワークです。どの商品を、どのくらいの価格で、どの経路で、どうやって販売するのかといったことを明確にすることで具体的な売り方が見えてくるでしょう。
自動車整備工場が利益を上げるコツ

最後に、ここまでの内容を踏まえて利益を上げるにはどうすればいいかを解説します。自社工場の再開発を目指している方などは、ぜひ参考にしてください。
明朗会計
顧客の視点に立つと、会計が分かりやすいかどうかは、自動車整備工場を選ぶ際の一つのポイントです。そのため、料金体系を明確にし、不明点の残らない明朗会計を心掛けてください。整備・修理内容によっては高額になることもあるため、費用の内訳を明確にし、なぜ高くなっているのか説明することで、顧客は安心して依頼できます。
既存顧客のフォローアップ
利益を上げるためには、リピーターの獲得が必要不可欠であるため、既存顧客のフォローアップは重要です。例えば、過去に一度修理や車検をしたことのある顧客に対して、「その後の様子はどうですか?」といった手紙やメールを送ることで、再度利用しようとするかもしれません。また、次回利用時に使えるクーポンを渡すことで、リピートするきっかけを作ることもできるでしょう。
オンライン集客
昨今では、お店探しや商品探しの際にまずインターネットやSNSで情報を収集するという人が多いため、オンライン集客の強化も重要なポイントです。ホームページを作成する、Googleマップ上での検索対策としてMEO対策をする、SNSで情報発信をするといったことが、顧客獲得につながるかもしれません。また、ホームページ上に詳しい料金体系を載せることも効果的です。予算に余裕がある場合は、Web広告を出稿するのも一つの方法です。
これまでの業務を振り返る
利益が思ったように伸びていない場合は、過去の業績の振り返りを行いましょう。振り返りをすることで、いつから利益が伸び悩むようになったのか、その年には何があったのかといったことに気づくきっかけとなります。新規事業を始めた、競合店が近隣にできた、といったことが原因であることが分かることもあるでしょう。マーケティングで何からすればいいか分からないといった場合は、まず自社の振り返りからはじめてみてください。
DX化
DXは「デジタルトランスフォーメーション」といい、企業がビッグデータのような各種データやIoTのようなデジタル技術を導入することで業務プロセスやビジネスモデルを変革することです。
身近なもので言うと、電子マネー決済やセルフレジを導入することで、会計に必要な人員を最小限に抑えるといったことが挙げられます。自動車整備工場の場合、車検費用や整備費用は高額になりやすいため、現金決済だけでなく、電子マネー決済にも対応することで、利用者層が広がる可能性があります。
事業内容の拡大
事業内容を拡大することも利益アップにつながる可能性があります。例えば、代理店として自動車の販売をする、部品の販売をする、カーリースサービスを提供するといったことが考えられるでしょう。メインとなる事業に関連する事業、付加価値を与えられるような事業に進出することで、既存事業との相乗効果も期待できます。
最新車の整備をしない
自動車の整備に関していうと、最新車をあえて整備しないことで利益アップにつながる可能性があります。これは、最新車の場合、新しい技術や部品が導入されているため、従来の知識や技術では対応できず、新たに知識・技術を習得するコストが発生するためです。長年同じ車に乗り続け、故障しても修理して乗りたいという人は少なくないため、そういった人に絞ってサービスを提供するのも一つの方法です。
まとめ
今回は、自動車整備工場再開発のポイントとして、マーケティングの重要性について解説しました。マーケティングをとおして市場や競合他社の動向、自社を取り巻く環境、顧客のニーズなどを把握することで、適切なサービスの提供が可能です。また、V字回復を果たしたUSJのように、徹底した顧客目線を持つことや具体的なターゲットを設定することもマーケティングにおいては重要な役割を果たします。今回の内容を参考に、自社では何ができるのか考えてみてください。
ビズピット株式会社では、自動車整備事業者のコンサルティングを行っています。初回相談は無料となっているため、自動車整備工場の再開発を検討している方はぜひご利用を検討してみてください。