自動車整備工場を開業する際、新築ではなく居抜き物件を検討する方も少なくありません。居抜き物件を利用することで、自動車整備工場の開業に必要な資金を抑えられるなど、さまざまなメリットがあるためです。
とはいえ、居抜き物件をそのまま使用するのはおすすめできません。来店する自動車ユーザーに合わせて、おしゃれにリフォームする必要があります。
この記事では居抜き物件のメリット・デメリットに加え、自動車整備工場としておしゃれにリフォームする際の注意点についても解説します。
居抜き物件を活用して自動車整備工場を開業する前に、知っておきたい工場の種類と用途地域
自動車整備工場を開業するには、認証工場と指定工場の違いや用途地域について理解しておくことが重要です。条件を正しく把握していないと、自動車整備工場を開業できない可能性があります。自動車整備工場を開業するために、まずは工場の種類と用途地域についてしっかりと把握していきましょう。
認証工場
認証工場は地方運輸局局長によって認証された自動車整備工場で、自動車の「特定整備」を行うことができます。
ただし、認証工場は、車検をするための検査ラインを工場内に持っているわけではありません。認証工場で整備を行った自動車を車検に出す場合は、陸運支局などの車検場に持ち込む必要があります。
認証にあたっては、以下の基準を満たしている必要があります。(※1)
- 整備対象の自動車に応じて、車両置き場と作業場の広さが規定を満たしていること
- 従業員のうち、1人以上が2級以上の整備士の資格を持ち、従業員数の4分の1以上が3級以上の整備士であること
- 整備対象に応じて設備・備品を保有していること など
道路運送車両法で定められた基準を満たすことで、認証工場として認定されます。認証工場を取得しておけば、自動車ユーザーからの信頼が得られやすくなります。
指定工場
指定工場とは認証を受けた自動車整備工場のなかでも、地方運輸局局長から指定工場として認可を受けた工場のことです。
指定工場は自動車の検査や車検の整備を行うことができる工場であり、以下の基準を満たしていることが求められます。(※2)
- 整備対象の自動車に応じて、車両置き場と作業場の広さが規定を満たしていること
- 従業員に対する自動車整備士数の割合が2名以上かつ3分の1以上であること
- 1名以上の自動車検査員がいること
- 整備対象に応じて設備・備品を保有していること など
指定工場として認められれば、厳格な基準を満たしている証明になります。自動車ユーザーも安心して整備を依頼できるため、ビジネスの拡大につながるでしょう。
用途地域
用途地域とは、都市計画法に基づいて区分されている、土地の利用法を定めたエリアのことです。
大きく分けると「住居系・商業系・工場系」に分けられており、一般的に自動車整備工場は工業系や商業系での営業が許可されています。それぞれの地域の特徴は以下の表のとおりです(※3)。
表1 用途地域ごとの特徴
なお、商業系の地域に自動車整備工場を建てる場合は、周辺環境の配慮や騒音対策などに注意が必要です。自治体によって規制が異なるため、事前に自動車整備工場を建てる予定の用途地域が何にあたるのかを確認しましょう。そのうえで、自動車整備工場を開業しても問題ないのか判断します。
居抜き物件で自動車整備工場を開業するメリット
自動車整備工場に居抜き物件を利用することで、開業費用や時間を節約できるメリットがあります。
開業費用を抑えられる
居抜き物件であれば、自動車整備工場の開業にかかる費用を抑えられます。
居抜き物件とは、廃業や移転によって前オーナーが使っていた設備が残ったまま空室となった物件のことです。残された設備を活用できるため、新たに導入が必要となる設備が最小限で済みます。このため、建設費や設備導入費用を大幅に節約できます。
ただし、居抜き物件でも前オーナーが使用していた設備や内装が古くなっていたり、自身が目指しているビジョンに合わなかったりした場合は、改修やリフォームが必要です。
開業まで時間を短縮できる
居抜き物件は建物や設備をそのまま利用できるため、自動車整備工場を一から建てるよりも、開業までの時間がかかりません。しかも、以前に自動車整備工場が営業していた場所であれば、営業許可を取得するプロセスもスムーズに進みます。
このように、居抜き物件を活用すると開業までの時間を短縮できるため、資金繰りやキャッシュフローの面でも有利になるでしょう。ただし、物件の状況や前オーナーの手続き状況によっては、一部手続きや改修が必要になることも考慮しておかなくてはいけません。
居抜き物件で自動車整備工場を開業するデメリット
居抜き物件はメリットもありますが、もちろんデメリットもあります。デメリットについても詳しく理解しておきましょう。
近隣クレームを受ける可能性がある
騒音問題などで、前オーナーと近隣住民との関係が悪かった場合、新規開業した際に引き続きクレームが寄せられることが珍しくありません。自動車整備工場ではエンジンの作動音や修理作業による騒音や振動が発生するため、近隣の住民からクレームのリスクがあるといえます。
こうした事態を防ぐためには、開業前に近隣住民とコミュニケーションを取り、新しい経営者として信頼関係を築くことが重要です。
自動車整備工場を開業する際は、近隣クレームを未然に防ぐために、開業前に十分なリサーチと対策を行いましょう。近隣住民との良好な関係を築くことが大切です。
リフォームが必要になる可能性がある
居抜き物件を活用して自動車整備工場を開業する際には、リフォームが必要になる可能性があります。具体的には、以下の理由でリフォームが必要となることが多いです。
- 前オーナーが使用していた設備が古くなったり故障したりしている
- 新しいサービスを展開するために、工場内のレイアウトや設備を変更する必要がある
- 前オーナーが安全や環境基準を満たしておらず、適切な状態にする必要がある
- お客様に良い印象を与えるために、工場の外観や内装をおしゃれにリニューアルする必要がある
上記のような理由でリフォームが必要になる可能性が高くなります。居抜き物件を活用する際は、開業費用の中にリフォーム費用を見込んでおく必要があります。リフォームの際は専門家と相談し、効果的な改善策を立てましょう。
居抜き物件を探すのが難しい
居抜き物件を活用して自動車整備工場を開業しようと考えても、適切な物件を見つけるのが難しいケースがあります。これには、以下の3つの理由があります。
- 自動車整備工場は専門的な設備や施設が必要であり、一般的な商業物件とは異なる。そのため、不動産市場に出回っている居抜き物件の数が少ない。
- 自動車整備工場は、法令上の制約や騒音・振動の問題から特定の用途地域での営業が求められる。好立地であることと用途地域の条件を両立させる物件を見つけるのが難しい。
- 自身のニーズに合った設備や規模の物件を見つけるのが難しい。
居抜き物件を見つけるのは容易ではないため、不動産業者や専門家と連携して情報収集を行い、自分の求める物件を見つける努力が必要です。
すべての条件が揃っていない物件だとしても、ある程度の条件を満たしているなら妥協が必要です。足りないところはリフォームをすることにして、物件選びの幅を広げることも重要でしょう。
指定工場と認証工場の基準を把握しておく
居抜き物件で自動車整備工場を開業する際には、指定工場や認証工場の基準を満たしていないケースがあることに注意が必要です。
例えば、普通自動車を整備する自動車整備工場の場合、指定工場では現車作業スペースが64㎡以上必要になります。認証工場でも車両整備スペースの間口が4m以上かつ奥行きが8m以上必要です。これ以外にも以下の表のような基準があるので、確認しておきましょう(※4、※5)。
表2 認証工場と指定工場の要件(※普通自動車の場合)
安易に居抜き物件を購入してしまうと、認証工場として認められない物件を選んでしまうことにつながります。
なお、特定整備ができる認証工場に認定されるためには、水準器や整備用スキャンツールなどの設備も必要になります。点検や整備に要求される機器や、法令、自動運転装置に関連する情報を入手できる状態にすることが義務付けられているためです。また、作業面積についても以下の基準が定められています(※6)。
- 電子制御装置点検整備作業場:間口2.5m、奥行き6m(屋内3m)
- 天井高さは、エーミング作業が十分に行えること
- 床面は平滑であること
- 車両置場:間口3m以上、奥行き5.5m以上 など
特定整備を行うことができる自動車整備工場には、厳格な基準が設けられていることを理解しておきましょう。
居抜きの自動車整備工場をおしゃれにリフォームする際の注意点
自動車整備工場をおしゃれにリフォームすると、自動車ユーザーが親しみを持ってくれやすくなり、集客につながるなどのメリットがあります。自動車整備工場をおしゃれにリフォームするための注意点も合わせて理解しておきましょう。
リフォームの注意点を理解しておかないと、集客が滞ってしまう可能性があります。安定した経営をするため、自動車整備工場をおしゃれにリフォームする際の注意点について解説します。
最新設備を導入できるのか確認する
居抜き物件の自動車整備工場を選ぶ際には、最新の設備が導入できるのかを確認することが重要です。
例えば、以下のような設備を導入できるかどうか確認するとよいでしょう。
- 自動車整備用移動式リフト
- EVの充電設備
- スキャンツールなど特定整備(エーミング)に必要な設備
自動車整備用移動式リフトは、工場内の使用したい場所でどこでも使えるリフトです。固定式リフトは、下回りの整備をできる場所が限られてしまいますが、移動式リフトを利用すれば、工場内のどこでも整備が可能になります。
EVの充電設備を備えておけば、EVに乗っている自動車ユーザーが自動車整備工場に立ち寄りやすくなります。常連になってくれると、EVの定期点検などで入庫が増えるかもしれません。
また、特定整備(エーミングなど)を実施するためには、特定整備用の設備を導入する必要があると定められています。特定整備の認証工場となるために、設備の導入は欠かせません。
このような設備を導入することで、他の自動車整備工場との差別化を図ることができ、集客に繋げることも可能です。
しかし、工場の広さやレイアウトによっては、リフトやEVの充電設備、あるいはスキャンツールなどの特定整備のための設備を導入できない場合もあります。特にスキャンツールは居抜き物件であっても設置されていない自動車整備工場も多く、導入したくてもスペースを確保できないケースも少なくありません。また、最新設備を導入しようとすると費用がかかります。
リフォームにあたっては、工場のレイアウトを確認し、導入したい設備が設置できるかどうか、リフォームにどのくらいの予算をかけられるのかを明確にしたうえで、必要な設備をピックアップしましょう。
親しみを持ってもらえる外観にする
親しみやすい外観を持った自動車整備工場は自動車ユーザーに好印象を与え、リピーターを増やすことにつながります。
例えば、カーディーラーのようなおしゃれな外観デザインにすれば、他の自動車整備工場との差別化につながります。自動車ユーザーの印象に残る工場になることでしょう。外壁や屋根には、清潔感のある明るい色調の塗装を選ぶことで、華やかな自動車整備工場という印象を与えられます。
このように、おしゃれで親しみやすい外観デザインは、自動車ユーザーがリラックスして利用できる空間の提供に繋がります。リピーターの獲得に大きく影響するため、こだわるのがよいでしょう。
自動車ユーザーが快適に使える待合室やトイレを設ける
自動車ユーザーが快適に過ごせる待合室やトイレは、整備工場の利便性を高める重要な要素です。待合室やトイレが快適でないと、自動車ユーザーにとって利用しにくい印象を与えてしまいます。リピーターを失うことにつながります。
たとえば、待合室には座席だけでなく空調設備やWi-Fi、飲み物のサービスなども用意しておくと、お客様に好印象を与えます。トイレは清潔にしたうえで便座のウォシュレット機能や手すり、ベビーチェアなどを設置すれば、幅広い自動車ユーザーのニーズに対応することが可能です。
上記のような工夫をした待合室やトイレを用意することで、自動車ユーザーがストレスなく利用できる環境を提供できます。リピーターの獲得に繋がります。
建設費用を明確にしておく
居抜き物件の自動車整備工場をリフォームする際には、リフォームに必要な建設費用を明確にしておくことが重要です。費用を明確にして事前に詳細な予算計画を立てることで、導入できる整備が見えてきます。
ただし、リフォーム後の運営費用や将来の設備更新費用も考慮する必要があります。リフォーム後の運営費用や将来の設備更新費用を考慮したうえで、必要な設備を導入しましょう。
リフォームにかかる費用の準備も必要ですので、費用を賄うための資金調達方法を検討する必要があります。銀行融資やリース契約、補助金・助成金活用など、さまざまな資金調達法から適切な方法を選択しましょう。
自動車整備士が働きやすいレイアウトにする
自動車整備工場のリフォームを成功させるには、自動車整備士が効率的に働ける工場レイアウトにするなどの工夫が不可欠です。整備士が効率的に働けるレイアウトにすることで、サービス品質や効率が向上します。結果として、自動車整備士の採用や離職を防ぐ効果も期待できます。
具体的には、整備士の作業効率に大きく影響するレイアウトを検討します。作業エリア、収納スペース、洗浄スペースなどが効率的に配置されているのかを確認するようにしましょう。
自動車整備工場内の動線がより短くなるようなレイアウトとすることで、自動車整備士が快適に働けるようになるはずです。
将来の自動車の使われ方を考慮する必要がある
自動車整備工場をリフォームする際には、将来の自動車の使われ方を考慮することが重要です。たとえば、EVの普及やドライブスルー車検などのサービスが普及していくことが考えられます。自動車整備工場は、これらのニーズに対応した施設にすることが求められます。
EVへの対応としては、EV用充電器を設置することで、EVを持つ自動車ユーザーの対応ができるようになります。さらに、EV用充電器を設置することで環境に配慮した自動車整備工場というイメージを与えられます。多くの自動車ユーザーに好感を持ってもらえるでしょう。リピートしてもらえる可能性が高まるため、EV用充電器は積極的に設置したい設備です。
ドライブスルー車検に対応した施設にすることも重要です。ドライブスルー車検では、顧客は自分の車を降りることなく車検を行います。これまでの車検よりも手間が少なくなるというメリットがあります。ドライブスルー車検に対応した設備を備えることで、忙しい自動車ユーザーの集客に大きく繋がるでしょう。
自動車整備工場のリフォームにおいては、将来の自動車の使われ方を考慮することも大切です。EV対応やドライブスルー車検などのサービスを提供できる施設にすることが重要です。より多くの自動車ユーザーのニーズに応えることができ、売上アップに繋がります。
まとめ
居抜き物件を活用して自動車整備工場を開業する際には、以下の3点に留意することが重要です。
- 工場の種類や用途地域の確認
- メリットとデメリットの把握
- リフォーム時の注意点
上記のポイントを押さえながら適切な物件選びやリフォーム計画を立てることで、オシャレで集客が期待できる自動車整備工場を開業できます。
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【引用】
※1 ・ ※2
・認証基準 作業面積、設備、要員
https://www.tossnet.or.jp/tabid/93/Default.aspx?itemid=5389&dispmid=452
※3
・用途地域(国土交通省)
https://www.mlit.go.jp/crd/city/plan/03_mati/04/
※4
・特定整備工場基準のご案内(一般社団法人岐阜県自動車整備振興会)
https://www.gaspa.or.jp/pdf/auth/auth_ichiran.pdf
※5
・認証工場及び指定工場の基準
https://wwwtb.mlit.go.jp/kanto/jidou_gian/seibi/date/koujou_kijyun.pdf
※6
・ 特定整備制度概要
https://www.mlit.go.jp/jidosha/content/001332203.pdf