OBD点検の義務化が自動車整備業界に与える影響とは?

OBD(車載式故障診断装置)診断は、スキャンツールを用いて自動車の故障箇所を診断する技術で、今後の特定整備や車検分野で義務化される予定です。本稿では、自動車整備事業者のため、OBD点検や制度としてのOBD検査の概要について解説します。

【目次】
1 そもそもOBD(車載式故障診断装置)とは?
2 OBD点検は2021年10月より義務化
3 これからOBDはどう変わっていく?
4 OBDの拡がりに対する自動車整備事業者のメリット
 4-1 車検業務の工数削減
 4-2 予防点検のニーズが高まる
5 まとめ

そもそもOBD(車載式故障診断装置)とは?

OBDコネクタにスキャンツールを接続すれば、ECUが検知するリアルタイム情報やDTCとして記録された不具合を読み取って、点検整備の効率化が可能です。現在使用されているOBD点検は「J-OBDⅡ」と呼ばれるDTCとコネクタの形を統一した規格に準じたもので、日本国内では2009年以降義務化されています。

OBDを活用した点検や自動車整備が普及し、自動車整備業務がより効率的に行えるようになれば、自動車整備や点検、車検対応にかかる時間も削減できます。後述の車検証のIC化と合わせて、ユーザーの自動車データがスピーディに参照可能になることで、自動車整備業務全体の効率アップが期待できるでしょう。

車載ECUに関しても、スキャンツールによって故障箇所が見つかれば、逐一車体の分解をせずとも家電のように筐体ごと交換対応の形を取る修理が増えてくるかも知れません。

その場合、部品業者と提携し自社顧客の自動車を整備する際に必要となる可能性が高い部品をあらかじめ用意するか、すぐに取り寄せられる体制を整えておけば、売上の機会損失を防ぐことに繋がるでしょう。

OBD点検は2021年10月より義務化

2021年3月に自動車点検基準の改正が行われたことによって、同年10月より電子制御装置を搭載する自動車は12ヶ月点検において「OBD点検」を実施することが義務付けられました(※1)。

OBD点検が必要になった背景として、ここ10年で増加傾向にあるADAS(先進運転支援システム)車の存在が挙げられます。ADASを搭載した自動車の増加に比例して、センサー類や電装系などの不具合が発生するケースも増え、それらを法定点検や車検の対象とする必要性に迫られたのです。

さらに、今後は車検の際に専用アプリをインストールした法定スキャンツールで故障コードを自動車から読み取り、合否判定を行う「OBD検査」も開始されます(※2)。開始時期は国内車が2024年以降、輸入車が2025年以降となっています。OBD検査の対象となるのは、2021年10月以降の新型乗用車・バス・トラックで、保安基準に規定が定められているADAS・自動運転システム・排ガス関係装置をチェックする検査です。

これからOBDはどう変わっていく?

交通安全環境研究所講演会が公開している「OBDの現状と将来の活用方策」の中では、テレマティクス技術を活用した「OBDⅢシステム」が提案されています(※3)。OBDⅢは通信技術を活用することで遠隔地での故障診断が可能になり、現在はプロトタイプを研究開発中です。

OBDⅢが提案された背景には、ディーゼル重量車の排出ガス低減装置の車検を行う際にOBDを活用する意図があります。既存のOBDⅡではレディネスコードで排出ガス低減装置を検査するのですが、レディネスコードが自動車整備時に消去されて、車検のタイミングで診断できない場合があります。そのため、より正確な故障診断が行えるテレマティクス技術を活用したOBDⅢの実用化が求められているのです。
 
一方で、テレマティクス技術を活用した自動車診断技術としては、テスラの「OTA(Over The Air)」があります(※4)。OTAは、無線通信によってデータを送受信する技術で、これによりソフトウェアの自動アップデートが可能です。

今後、自動運転やEVの普及が進めば、自動車に搭載されるソフトウェアはますます複雑なものになります。より効率的に作業を行うため、使い勝手の向上といった観点からも更なる技術発展が期待されているのです。

OBDの拡がりに対する自動車整備事業者のメリット

OBD点検やOBD検査がメジャーになれば、自動車整備業界にも変化が訪れます。現在、想定される事柄としては「車検業務の工数削減」「予防点検のニーズが高まる」などです。

車検業務の工数削減

OBD点検・OBD検査が普及し、自動車整備点検業務がより効率的に行えるようになれば、自動車の整備・点検や車検対応にかかる時間も削減できます。日本では、今後車検証のIC化も実施されますので、IC化された車検証でユーザーの自動車データがスピーディに参照可能になれば、OBDと合わせることで自動車整備業務全体を通して大幅な効率アップが期待できるでしょう。

最新技術により業務効率化を実現している事業者もすでに存在しています。長野県で展開しているアルピコ交通株式会社のアルピコ車検(※5)では、コンピューターマルチテスターによる自動車の測定検査を導入しており、45分程度のスピーディな車検サービスを提供しているとのことです。

2021年7月には、レクサス高輪で起こった値の書き換えによる不正車検(※6)が話題となりました。しかし、検査内容がデータとして記録されるようになれば、こういった改ざんも難しくなり、不正の抑制にも繋がります。

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予防点検のニーズが高まる

OBDの活用で自動車整備・点検業務に必要な工数が削減できれば、ユーザー側の予防点検に対するニーズが高まる可能性があります。

ユーザーに対してより安価かつ短時間で自動車整備・点検のサービスを提供できるようになるため、従来のECU搭載車の点検・自動車整備と比較してユーザー側の心理的ハードルも下がることが予想されます。故障が発生する前に自動車整備店へ車を持っていくユーザーが増えることで、予防点検のニーズが高まる可能性も考えられます。

まとめ

OBDの技術がスタンダードになれば、自動車整備・点検業務が非常に簡便になり、ドライブスルー形式の点検や自動車整備等が普及し、自動車の予防整備がよりメジャーな存在になると考えられます。

OBD診断の普及で点検作業がより安価かつスピーディに行えるようになれば、ユーザー側の心理的なハードルも下がり、予防点検のニーズも高まる可能性があります。自動車整備店としては「EVの充電設備を併設する」「顧客管理を行い顧客ごとの平均単価を上昇させる」「商圏分析を行い潜在顧客を獲得する」などの施策も併用すれば、利益を上昇させられるのではないでしょうか。

EVの普及を見据え、自動車整備事業者が備えておくべきことは?

大阪・兵庫を中心に事業を展開するビズピット株式会社では、自動車整備事業者の皆さまが、自動車および自動車部品メーカでの開発経験を活かし、OBDをはじめとする新技術を用いた新事業の開発を進めるサポートをさせていただきます。新技術の導入に不安を感じていらっしゃる方は、ぜひお問い合わせください。



【引用】
※1
・国土交通省
https://www.mlit.go.jp/report/press/jidosha01_hh_000066.html

※2
・国土交通省
https://www.mlit.go.jp/jidosha/jidosha_OBD.html

※3
・交通安全環境研究所講演会
https://www.ntsel.go.jp/Portals/0/resources/kouenkai/h28/6_160708.pdf

※4
・自動運転LAB
https://jidounten-lab.com/y-over-the-air-autonomous-connect#OTA

※5
・アルピコ交通株式会社
https://www.alpico.co.jp/jikou/about/

※6
・TOYOTA
https://global.toyota/jp/newsroom/corporate/35709413.html

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