自動車整備工場の組織形態とは?株式会社と協業組合を徹底比較

自動車整備工場が事業を営んでいく組織形態を考えた場合、最も一般的な組織といえるのが株式会社です。出資者を募って資本金を集め、定款に基づいて事業を運営する株式会社は、日本国内に約178万社あるといわれています。その4分の3は従業員10名未満の小企業が占めています。

株式会社以外に別の組織形態で自動車整備の業務を行っていくことも可能です。特に、中小企業同士で『協業組合』を組織し、お互いの事業を助け合う形態が注目されています。

近年、自動車整備事業者は仕入れコストや光熱費などの運営コストが上昇しつつあり、その一方で人手不足といった厳しい状況が続いています。多くの自動車整備工場が、事業を運営していく上で問題を抱えています。その対策として『協業組合』を組織し、規模を拡大して効率的な運営をする動きがみられます。

この記事では、株式会社と協業組合を比較し、お互いのメリット・デメリットを解説します。自動車整備工場が協業組合に参加する際のポイントについても紹介します。

目次

自動車整備工場の組織形態の種類

自動車整備工場が事業組織を作る場合には、いくつかの選択肢があります。一般的には株式会社を設立することが多いですが、協業組合を組織し他の自動車整備工場と協力して運営していく形態にすることも可能です。ここでは、それぞれの組織の特徴を、個人事業主と比較しながら解説します。

株式会社

令和3年6月1日現在、日本国内では事業体が約368万体あり、そのうち約178万体が会社法人、約28万体が会社以外の法人、約162万体が個人事業主となっています。(※1)

会社法人のうちの約95%が株式会社で、事業を行う際の組織としては最も一般的な形態です。

株式会社は、株式を発行して出資者に購入してもらうことで資金を集め、事業を行っていきます。そして、出資者である株主は会社の利益から配当を受け取り、株主総会を通じて会社の運営に意見を出すことが可能です。

また、事業運営を行う「取締役」は株主総会で選出され、その代表となるのが「代表取締役」です。株主が取締役になることも可能で、多くの中小企業では、出資者が取締役を兼ねています。

株式会社を設立するには、1名以上の発起人がいなければならず、会社の目的、社名、事業内容、本店所在地などを定めた定款の作成が必要です。公証役場で定款認証を受けて出資金を払い込み、会社設立登記申請をすれば株式会社が設立できます。

協業組合

中小企業は経営基盤が小さく、資金力・技術力などで厳しい立場にあります。しかし、中小企業同士が協力して組合を作り、規模の拡大や技術提携をすることで、経営力を強化できます。

中小企業の組合にはいくつかの種類がありますが、特に参加する企業の事業を統合するのが『協業組合』です。組合員になるそれぞれの中小企業者が、これまで運営してきた事業を統合することで規模を拡大し、技術力の向上や設備の合理化、仕入れ・販売の効率化を目的とします。

協業組合の事業形態としては、一部分のみを統合する「一部協業」と、全部の事業を統合する「全部協業」があります。どちらの場合も、統合した事業は組合として行わなければならず、各事業者が個別に行うことはできなくなくなるので注意が必要です。協業組合を設立するには4人以上の事業者が必要で、加入できるのは中小企業に限られます。組合員は出資額に応じて議決権を持ち、新規加入を制限することも可能です。

個人事業主

個人事業主は、個人で事業を運営している形態のことです。

設立登記などは不要で、所轄の税務署に開業届を提出するだけで簡単に始められます。

ただし、個人事業の税金は累進課税制度で課せられるため、多くの利益が出た場合には所得税・住民税がともに50%以上となることもあります。一方、法人の場合は利益に対して30%前後が課税額となります。ある程度の利益の規模になると、個人事業が不利になるといえるでしょう。

とはいえ、法人では赤字の場合でも最低7万円の税金がかかるので、利益が少ない場合は法人のほうが不利になります。自社の財政状況を踏まえた上で慎重な判断が求められます。

自動車整備工場を株式会社化するメリット

一般的に事業を行う場合の組織形態では、株式会社とすることが多いです。自動車整備工場を株式会社化するメリットとしては、下記のようなことが挙げられます。

● 資本調達が容易になる
● 法的・財務的リスクが分散できる
● ブランド力が向上する

それぞれ詳しく見ていきましょう。

資本調達が容易になる

株式会社にすることによって、個人事業よりも資本調達が容易になります。株式を発行して出資者を募ることができるためです。将来の成長を見込めると判断した人や企業に発行した株式を購入してもらうことで、資金を広く集められます。

また、株式の発行で集めた資金は返済の必要がないため、長期で運用しやすいこともメリットです。長期で運用しやすいため、資金を活用して新たな設備投資を行ったり、新しい分野に進出したりして業務を拡張することで、企業の成長を加速していけます。

また、株式会社になることで社会的な信用が高まることも忘れてはいけません。信用が高まったことで、銀行などの金融機関から融資も受けやすくなることも、資本調達が容易になると言えるゆえんです。

法的・財務的リスクが分散できる

事業形態を株式会社にすることで、事業に対する責任は出資した金額に限定されます。出資者と会社は法的には別の人格として考えられるため、万が一のことが会社に起きた場合にも、出資した金額の回収をあきらめれば、それ以上の責任を負う必要はありません。「出資者が会社の債務者に対して負う責任は出資額まで」と法律にも定められており、「有限責任」といいます。

この仕組みによって、企業のオーナーである株主は、法的・財務的なリスクを分散して企業を運営させることが可能になります。個人事業であれば個人が全ての責任を負うため、この面は法人化するメリットと言えるでしょう。

ブランド力が向上する

株式会社として法人化することで、社会的な信用が高まり、ブランド力も向上します。「株式会社」という名称は社会的にも認知されており、法的な規制の下に運営されているからです。株式会社の設立には一定の資本金が必要であり、登記手続きをしなければなりません。こうしたプロセスを経ていることが信用を担保しているのです。

社会的な信用やブランド力が向上することで、人材を採用しやすくなったり、新たな取引先と契約しやすくなったりするメリットが挙げられます。また、銀行などの金融機関から融資を受ける際にも、社会的な信用が高い株式会社のほうが、個人事業のときよりも審査がとおりやすくなるでしょう。

自動車整備工場を株式会社化するデメリット

自動車整備工場を株式会社化することで、下記のようなデメリットも生じます。

● 運営が複雑化する
● 初期費用の負担が必要になる

それぞれについて確認してみましょう。

運営が複雑化する

株式会社には決算公告の義務が発生します。決算公告とは、会社の決算の内容を外部に公表することです。公表の方法は定款によって定められています。官報や新聞で公告する場合は最低でも7万円の費用が必要になります。

また、株式会社の役員の任期は通常2年で、定款の変更をした場合でも最長10年です。役員の任期が終了した後は再任の場合であっても、改めて任用するために株主総会の決議などの手続きを経て、登記手続きをしなければなりません。このように、運営が複雑化するというデメリットがあります。

また、法人の場合は赤字であっても最低7万円ほどの法人住民税を支払う必要があることもデメリットと言えるでしょう。

初期費用の負担が必要になる

株式会社の設立にはさまざまな手続きとそれに伴う手数料が必要になります。支払う費用の詳細については、下記のとおりです。

項目費用
定款用収入印紙代(電子定款では不要)4万円
定款の謄本手数料約2,000円(250円/1ページ)
定款の認証料資本金100万円未満:3万円
資本金100万円以上300万円未満:4万円
資本金300万円以上:5万円
登録免許税15万円または資本金額×0.7%のどちらか高いほう
合計約25万円~

これらの費用に加えて、代表印の作成に1万円程度、司法書士などの専門家に設立登記業務を依頼した場合は、手数料として7万円〜10万円の支払いが必要です。

株式会社を新たに設立するには、さまざまな手続きと費用がかかります。この点が大きなデメリットといえるでしょう。

自動車整備工場が協業組合に参加するメリット

自動車整備工場が協業組合に参加する場合に、下記のようなメリットが考えられます。

● 仕入れコストを削減できる
● ノウハウや情報を共有できる
● 交渉力を強化できる
● 緊急時にサポートを受けられる

それぞれについて、解説しましょう。

仕入れコストを削減できる

協業組合に参加して他の事業者と一緒に事業を行うようになると、仕入れをまとめることができます。参加している全員分の仕入れを一度に行うことでスケールメリットが働くため、一人当たりのコストは大幅に下げられることでしょう。また、大きな施設を共同で利用する場合には、家賃や光熱費も単独の場合より節約できます。他にも、参加している業者の得意分野が異なる場合は、それぞれで分業して業務を行えば効率化が図れます。

このように、協業組合に加入し協力して業務を行うことで、さまざまな面で合理的な運営が可能になるでしょう。

ノウハウや情報を共有できる

協業組合では、組合員間での情報共有やノウハウの交換が容易になります。これにより、ビジネスの効率化や品質向上が期待できます。

また、設備の共同使用や業務連携によって、単独で自動車整備を行っていたころにはできなかった作業が対応可能になるため、売上機会を増やすことにつながります。

参加者それぞれの得意分野を生かした事業展開が可能なので、自分だけの能力の範囲でやっているよりも、チャンスは大幅に広がるでしょう。組合員同士でお互いの協力関係を生かした事業展開を図ることが可能です。

交渉力を強化できる

組合として共同で事業を行うことで、他の業者と取引する際の交渉力が単独の場合よりも大幅に強化されます。取引条件を交渉する際には、規模の大きさを生かして有利な条件を引き出せるでしょう。

また、業務の規模が大きくなったことで、単独業務では扱えない規模の大きな引き合いにも対応できます。単独では引き受けられない事業も、協同組合で引き受けることで受注できるチャンスが出てくるのです。

緊急時にサポートを受けられる

協業組合では組合員間での協力体制が整っているため、一つの事業者に問題が発生した場合でも、他の事業者からカバーしてもらえます。

自社だけで整備を行っている場合は、設備の不調や部品の不足、従業員の急な欠勤などがあった場合に対応できず、顧客に迷惑をかける可能性がありました。しかし、事業者同士の協力体制を築くことで、緊急時のリスクを低減でき、トラブルになる心配をせずに業務に取り組めます。

こうした体制が構築されることによって、顧客側も安心して依頼できるため、お互いにメリットがあるといえるでしょう。

自動車整備工場が協業組合に参加するデメリット

協業組合に参加することで協力関係ができて業務の幅が広がる反面、下記のようなデメリットが生じる可能性があります。

● 組合費や参加費が必要になる
● 業務の制約がある
● 円滑な意思決定ができない可能性がある
● 高齢化によりモチベーションが低下しているケースがある

それぞれについて解説していきましょう。

組合費や参加費が必要になる

協業組合に参加する場合、組合によっては組合費や参加費を支払うことが参加の条件となっているケースがあります。支払う費用に対して十分なメリットが得られるのであれば問題ありませんが、そうでなければ負担になってしまいます。

組合加入が同業者同士の単なるお付き合いになってしまっては、加入する意味がありません。加入する前に費用対効果をしっかりと検討し、費用に見合うメリットがある場合にのみ参加するようにしましょう。

業務の制約がある

多くの場合、協業組合の運営に一定のルールや規約を設けて、自由に事業を展開できないようにしています。組合が主体となって業務を行うためです。こうした制約で自分がやりたい独自のビジネス展開や戦略が制限され、思うように事業を拡大できない可能性があります。

そのため、協業組合に加入する前に、どういったルールがあるのか確認しておきましょう。独自のやり方で事業展開をしたいという思いが強ければ、一部の業務だけを協業組合と協力して実施することなどを提案してみるとよいかもしれません。

組合員となって協力できるところは協力し、その一方で独自の活動を別に展開していくような形もあります。

円滑な意思決定ができない可能性がある

協業組合では、意思決定をする際に多数決や協議を実施する必要があります。その分決定をするまでの時間がかかってしまいます。場合によってはなかなか意見がまとまらず、時間を要するケースがあるかもしれません。

そうしたことが頻繁に起こると、これまで単独で事業を行っていた人にとってはストレスを感じるようになるでしょう。自身の性格を鑑みて加入を検討する必要があります。

高齢化によりモチベーションが低下しているケースがある

組合員が高齢化していたり、この先の自動車整備業界に不安を感じていたりして、積極的に事業を展開しようとするモチベーションに欠けている協業組合もあります。組合全体に活気がなく、現状維持を最優先に取り組むケースもあるようです。

こうした組合に加入すると、自分もその雰囲気に引っ張られてしまい、新たな取り組みをする気持ちが出てこなくなるかもしれません。加入しようとしている組合の雰囲気をしっかりと見定める必要があります。

自動車整備工場が協業組合に参加する際に見極めておきたいポイント

協業組合に加入すると、これまで単独で行ってきた事業形態が大きく変わります。協業組合に加入しても自分が思うようなメリットが受けられないようであれば、参加する意味がありません。そうならないように、事前に見極めておくべきポイントがあります。

事業拡大など長期計画がしっかりとあるのか

協業組合がどのような事業計画を持って展開しているのかは、非常に重要なポイントです。協業組合が向かおうとする方向と自分の考えが合わないようでは、加入してうまく続けていくのは難しいでしょう。

協業組合に参加するかどうかを判断する際、自社の長期計画と組合の方針が合致しているかどうかを確認する必要があります。事前にしっかりと話を聞き、判断するようにしましょう。

組合員のモチベーションが高いか

組合員のモチベーションの高さは、協業組合運営の成否を左右します。組合員全体のモチベーションが高ければ、協業の成功確率も高くなりますし、逆にモチベーションが低いと組合活動が頓挫する可能性も高くなります。

自動車整備業界の事業環境は決して楽なものではありません。その中で何とか生き残り成長していこうという気持ちがなければ、単に同業者が集まった集団となってしまい、協業組合のメリットを発揮できないでしょう。

組合員の代表だけでなく、何人かの会員と、事業に対してどのように考えているか話を聞くようにしてください。

組合の信頼性は高いか

組合がしっかりと運営されているかどうかを判断するには、歴史や過去の実績を確認することが大切です。これまで協業組合としてどのような事業展開をしてきたのか、過去の売上や利益、経費の内訳といった経営資料を見せてもらい確認しておきましょう。また、周囲の評判や、金融機関の評価などの情報を可能な限り集めてから参加を判断するのがおすすめです。

柔軟性のある組織なのか

組織としての柔軟性も確認しておくべきポイントの一つです。協業組合の規約や方針が将来的に変更可能で、かつ柔軟な運営がされているかどうかもチェックしておきましょう。

古くから続いている組合では、古参のメンバーが意思決定に大きな影響を及ぼし、新たな取り組みが進めにくい雰囲気になっているケースもあります。今までこうしてきたから、といった前例に縛られていては、変化の激しい時代で生き残ることは難しいでしょう。時代の変化に対応していくためには、組織の柔軟性が必要不可欠です。

まとめ

自動車整備工場が事業を展開する組織形態として、株式会社と協業組合を紹介しました。

株式会社は一般によく知られており、社会的な信用もあります。ブランド力の向上にもなるため、資金調達や人材採用をしていく上で、プラスの効果が見込まれます。ただし、運営上の手続きが必要であり、設立にはまとまった費用が必要です。

協業組合は、事業者同士が提携し合う組合です。規模が大きくなることでコスト削減や交渉力アップなどのメリットがあります。その反面、組合のメンバーになることで活動が制限され、自分の思うような運営ができなくなる可能性があります。組合に参加するかどうかは、事前に情報を集めて、自分の思い描いた事業の方向性と協業組合の方針が合致しているかどうかを見極めてから判断しましょう。

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【引用】
※1 総務省統計局「令和3年経済センサス」
https://www.stat.go.jp/info/today/pdf/195.pdf

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