整備工場を省エネ化すればどのくらいの経費削減に繋がるのか?

日本では、2030年をめどに省エネルギー化を目標とした取り組みが国家規模で行われています。この取り組みは様々な業界に影響を与えており、自動車整備事業界も例外ではありません。事業場の省エネ化は社会的意義が高いだけでなく、経費削減の観点からもメリットがある取り組みです。

本稿では、自動車整備事業者の方に向けて、整備工場を省エネ化する必要性とメリットについて、具体的事例も交えて解説します。

【目次】
1 日本では2030年に向けて省エネの施策が実施される
 1-1 整備業者も影響を受ける省エネ法とは?
2 整備工場を省エネ仕様にすればどのくらいの経費削減になる?
 2-1 使用する電力を新興の独自サービスに変えた場合
 2-2 省エネ機器を導入した場合
 2-3 照明を省エネ化した場合
3 他業界の省エネに向けた取り組み事例と整備事業への応用案
 3-1 住宅業界のZEH
 3-2 遊休スペースを活用した太陽光設備設置
4 まとめ

日本では2030年に向けて省エネの施策が実施される

省エネに向けた取り組みはグローバル規模でのトレンドであり、日本も例外ではありません。経済産業省の資料によると、2050年のカーボンニュートラル目標に向け、まずは2030年時点でのエネルギー消費量を推定し、エネルギー需要への対策や省エネ対策を検討する必要があると述べられています(※1)。

※車両整備業者のカーボンニュートラルへの心構え

同資料では、2030年までのエネルギー消費方法の見直しにあたって「2030年時点のエネルギー消費量」「エネルギー需要への対策及び2030年の需要の絵姿の想定」について検討を進めているとのことです。それにより、今後は「省エネ法」に基づく規制の見直しや強化、支援策も含めた省エネ対策の推進が予定されています。

省エネの取り組みは、今後ますます社会的なトレンドになっていきます。自動車整備事業者としても経費削減の観点からだけではなく、社会的取り組みとして省エネに取り組む意識を持つ必要があります。

整備業者も影響を受ける省エネ法とは?

「省エネ法(エネルギーの使用の合理化等に関する法律)」とは、工場などの設置者、輸送事業者・荷主に対し省エネに向けた取り組みの目安となる判断基準を示す法律です。一定以上のエネルギーを使用している事業者は、エネルギーの使用状況を報告しなければなりません。

取り組み内容が不十分な場合には、指導や助言、合理化計画の作成指示などを受けます。例えば、整備工場の設置者が「エネルギー使用量1,500kl(原油換算)/年以上」の特定事業者の条件を満たし、報告義務対象者となった場合、以下のような対応を行う義務が生じます。

<特定事業者に発生する義務>
・エネルギー管理統括者及びエネルギー管理企画推進者
・中長期計画の提出義務
・エネルギー使用状況等の定期報告義務

整備工場を省エネ仕様にすればどのくらいの経費削減になる?

省エネに向けた取り組みは義務のようになりつつありますが、整備工場を省エネ化すれば経費削減に繋がるという実務面でのメリットもあります。以下より、整備工場を省エネ化した場合に削減できる経費の目安について、事例ごとに紹介します。

使用する電力を新興の独自サービスに変えた場合

日本では、低圧電力・高圧電力ともに電力の小売が自由化されています。すなわち、利用者は電力を提供する会社を自由に選択可能です。使用する電力を、新電力と呼ばれる電気事業者が提供するサービスに切り替えるだけでも、経費削減に繋がるケースがあります。

例えば、株式会社イーエムアイが公開している情報によると、自動車部品や工業用機械の設計開発などを行う企業で、使用する電力を一般の電力会社から特定規模電気事業者(PPS)のものに切り替えたところ、年間約145万円の削減に成功したとのことです(※2)。

省エネ機器を導入した場合

導入によって省エネを図れる機器のひとつに電子ブレーカーがあります。電子ブレーカーとはブレーカー機器の一種で、JIS規格で定められた遮断時間の許容限度まで、電気を利用できるようにするためのものです。

契約容量を下げることができるため、電気代における基本料金の削減が実現できます。株式会社ネオ・コーポレーションが提供している電子ブレーカー「N-EB」の場合、自動車整備工場に導入したところ、1ヶ月の消費電力が15KWから3KWにまで削減でき、その工場では年間15万円の削減に繋がったとされています(※3)。

元々の消費電力量が多いほど、電子ブレーカー導入の恩恵も大きくなります。自動車整備事業者の方々が手軽に導入できる省エネ機器のひとつと言えるでしょう。

その他の省エネ機器としては、省エネエアコンなどもあります。例えば、ダイキンの「設備用エアコン」は、省エネ性を指し示す指標であるAPF値が2015年省エネ基準値をクリアした製品です(※4)。ダイキンの設備用エアコンの場合、省エネにより電力削減に繋がるだけでなく、ベルトメンテナンス不要・ファンモーターの耐久性が従来機の倍であるなど、省エネ性だけでなく運用負担まで削減できます。

照明を省エネ化した場合

整備工場の照明をLEDに置き換えることでも、消費エネルギーおよび経費の削減が可能です。株式会社パルコミュニケーションズが自動車整備工場に対し導入した事例では、水銀灯400〜700Wを大型LED110Wに交換し、整備工場の省エネ化を実現しています(※5)。

この事例では、消費電力自体は4分の1まで削減できています。大型LEDなら水銀灯のように点灯まで時間もかかりませんので、こまめに電気を消すことができ、節電につながります。

他業界の省エネに向けた取り組み事例と整備事業への応用案

以下より、自動車整備業界でも参考になる、他業界の省エネに向けた取り組みについて紹介します。

住宅業界のZEH

「ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)」とは、地球環境に配慮した暮らしの実現に向けて住まいにおける年間消費エネルギーの実質ゼロを目指す、住宅業界の取り組みです。ZEHでは独自の「ZEH基準」という指標を取り入れ、高い断熱性能を持った住まいをベースとして「高効率機器やHEMSを用いた省エネ」「太陽光発電による創エネ」を採用し、「住宅の省エネ化」を進めています。

例えば、ミサワホームのZEH仕様の住宅では「高性能グラスウール」「高断熱サッシ」を標準で採用しているのが特徴です(※6)。その基本設計をベースに換気や空調、照明、給湯に省エネアイテムを用いたり、太陽光発電システムを自宅に設置したりすることで、わずかな仕様変更で大幅な省エネを実現しています。

ZEHに加え、ビルを対象に快適な室内環境を構築するZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)という取り組みもあります。整備工場を省エネ仕様に建て替える際には、これらのZEH・ZEBの事例が参考になるかもしれません。 

施設が大きくなれば、BEMSの導入が有効

ビル・エネルギー管理システムである「BEMS(ベムス)」は、建物内で使用するエネルギーを一括で管理するシステムです。室内の照明、空調、換気などで使われるエネルギーを設備ごと、あるいはフロアごとなどに計測できるため、省エネプランの策定に役立ちます。これに温度センサーや人感センサーを組み合わせると、部屋の使用状況に応じて空調や照明などの自動制御も可能です。

株式会社コム・トレードが 試作品製造業の工場・事務所にBEMSを導入した事例では、節電により電気使用量だけでなく契約容量も削減できています。この事例では、電気にかかるコストが年間60万円ほど削減でき、およそ1.8年で初期投資費用を回収できると見込まれています(※7)。

遊休スペースを活用した太陽光設備設置

2021年3月に実施された「内閣府再エネタスクフォース(※8)」では、農林水産省により再生可能エネルギーの導入を積極的に進めるという観点から、農地転用に関する規制の見直しが行われました。これにより、荒廃農地を整地し、太陽光発電設備を設置することによる創エネの計画が持ち上がっています。

しかし、荒廃農地には山林化しているところも多く、その場合は低コストで活用するのが困難である点がネックです。

「空き農地を活用して太陽光発電を行う」取り組みは、自動車整備業界でも参考になります。例えば、遊休スペースを活用するなどして自社で太陽光発電設備を設置すると、その分の電力をビジネスに活用可能です。

仮に、2平方kmに置かれた太陽光発電設備なら、年間約100kwの発電ができます(※9)。一般社団法人 日本自動車整備振興会連合会が公開している「自動車整備事業場ヒアリング調査結果 」によると、1,674.75 ㎡の整備工場における消費電力は年間約4万〜5万KWでしたので、十分に実現可能性はあるでしょう(※10)。

太陽光発電設備で作り出した電力は、自社の整備業務に活用するだけでなく、EVの充電サービスへの転用や売電など、今後自動車整備業界に起こる変化を見据えたビジネスのリソースとして活用できます。

まとめ

省エネに向けた取り組みは社会的なトレンドであるため、自動車整備事業者としても積極的に取り組まなければならなくなる可能性があります。しかし、新電力や省エネ機器を導入し、整備工場を省エネ化すれば、自動車整備事業者にとっても経費削減に繋がります。

ビズピット株式会社は、自動車整備事業者の皆さま向けに新規ビジネスを作るサポートだけでなく、経営の効率化に関する提案も行っています。整備工場の省エネ化に関して費用対効果の推定なども行えます。初回相談は無料ですので、お気軽にお問い合わせください。



【引用】
※1
・経済産業省
https://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/2021/040/040_005.pdf

※2
・株式会社イーエムアイ
http://www.emi-co.jp/html/works.html

※3
・株式会社ネオ・コーポレーション
https://satokou-unit.com/362

※4
・DAIKIN
https://www.daikinaircon.com/setubi/products/beltless/

※5
・株式会社パルコミュニケーションズ
http://pal-comm.jp/publics/index/313/

※6
・ミサワホーム
https://www.misawa.co.jp/kodate/guide/zeh/

※7
・大阪府
https://www.pref.osaka.lg.jp/eneseisaku/bems/koujo-4.html

※8
・内閣府
https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/conference/energy/e_index.html

※9
・大和電工株式会社
https://daiwadenko.com/approach-to-eco/solar-power/

※10
・日本自動車整備振興会連合会
https://www.mlit.go.jp/common/000108357.pdf

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