EDR/CDRで事故原因特定、データを活用して売り上げアップ

「EDR」や「CDR」とは、事故を起こしたときの自動車の情報を記録したり解析したりするための装置です。近年のドライバーの高齢化や自動運転の普及に伴い、EDR/CDRが注目されており、さまざまな問題解決の手段として期待されています。

事故発生時の状況をドライバーが正確に覚えていなかったり、証言に食い違いがあったりすると、事故後の対応が難しくなる場合があります。また、ASVの普及や自動運転技術の向上によって、事故の原因がドライバーの操作によるものか、自動車の不具合によるものかの判断が困難になるケースも想定されます。

EDR/CDRを活用することで事故時の状況をデータで示すことができるため、事故後のトラブルの解決に役立てられます。この記事ではEDR/CDRの詳しい内容や、自動車整備工場が活用するための方法を解説します。

目次

 EDR/CDRとは?

「EDR」はデータを記録するために自動車に搭載されている装置、「CDR」はEDRが残したデータを読み出すための装置のことです。それぞれの詳細を解説していきます。

EDRは事故時の車両データを記録

EDR(Event Data Recorder)は、エアバッグが作動した前後数秒間の自動車のデータを記録するシステムのことで、航空機の事故が起きたときの分析に使われるフライトレコーダーと同じようなイメージです。EDRはエアバッグコンピューターに内蔵されており、自動車メーカーが製造段階で搭載しています。

EDRには、数多くの種類のデータが保存されます。国土交通省が発表している「J-EDRの技術要件(※1)」には、J-EDRに要求されるデータ要素として以下の12項目の情報を定めています。

・デルタV(速度の変化)、縦方向
・最大デルタV、縦方向
・最大デルタV時間、縦方向
・車両表示速度
・エンジンスロットル開度
・主ブレーキON/OFF
・イグニッションサイクル、衝突(データが事故発生時のものか識別するための情報)
・イグニッションサイクル、ダウンロード
・シートベルトの状態
・前部エアバッグ警報ランプON/OFF
・前部エアバッグ展開(運転席)
・前部エアバッグ展開(助手席)

特定条件下においては、さらに35項目のデータ要素を定めており、多くの情報を記録できることが分かっています。EDRの記録時間は、事故が発生した瞬間を0秒とすると-5秒から+30ms(1ms=0.001秒)とされており、データ要素により求められる時間が異なります。

事故発生時の記録を残すという意味では、EDRに似ている装置としてドライブレコーダーがあります。ドライブレコーダーは動画の記録に向いていますが、運転者の操作状況や車両の不具合が分かりづらいという側面があるため、EDRの機能も必要とされています。

CDRでEDRのデータを読み取る

CDRは(Crash Data Retrieval)は、BOSCH(ボッシュ)が販売している、EDRの情報を自動車から読み出すツールのことです。EDRは事故発生時の記録を残す機能しかないため、CDRのようなツールを自動車に接続してデータを読み出す必要があります。

元々、自動車メーカーやディーラーでは自社の診断機を使うことで自動車のデータを読み出すことが可能でしたが、自動車メーカー以外の事故関係者が事故時の車両状態を確認できるように、CDRが機能実装されました。

似たような方法として、外部診断機などでOBDコネクタから車両情報を取得する方法がありますが、メーカーの意向やCANインベーダーのようなセキュリティーの問題などで今後は難しくなることが予想されます。

CDRの機能と使用方法

CDRでEDRデータを読み出す際は、CDRインターフェースケーブルを使用してCDRインターフェースモジュールを車両に接続します。CDRインターフェースケーブルには、車両のDLCコネクタに接続するためのDLCポートケーブルと、ECUに接続するダイレクトケーブルがあります。

CDRインターフェースモジュールでEDRデータを読み出したら、パソコンのアプリケーションソフトウエアでデータのレポート化が可能です。データをPDFフォーマットで出力できるため、レポートの保存や送信が容易です。

自動車整備工場がCDRを導入するために

CDRを導入するためには、CDRキットを購入するだけでなく、EDRデータを解析するための専門知識や経験が必要です。

CDRを購入するための価格は、CDR DLC ベースキットで約584,000円(※2)、より多くのメーカーや車種に対応するためのCDR 900 アップグレードキットが約24,000円(※3)です。CDRベースキットの動作には、CDRソフトウエア(別売り)とWindowsベースのパソコンが必要です。

BOSCHではCDRの研修を行っており、EDRの読み出しや環境記録方法などを学ぶ「CDRテクニシャン認定トレーニング」や、CDR読み出しやレポート解析を行うための「CDRアナリスト認定トレーニング」などがあります。それぞれ、参加資格や費用などが異なるため、詳しくはBOSCHが発表している「CDRトレーニング日程表 2023年」をご確認ください。(※4)

自動車メーカー以外の事故関係者がデータ解析をする必要性

以前から自動車メーカーは自社のツールを用いてEDRのデータを読み取ることができました。しかし、BOSCHのCDRのような、自動車メーカー以外の企業が販売するツールの普及に至る背景があります。

CDRが機能実装された背景

CDRが機能実装された大きなきっかけとなったのが、2009年から2010年にかけて世界中で実施された、トヨタのアクセルペダルに関する大規模リコールです。リコールの一連の経緯から自動車メーカーが開示する情報の不透明性が指摘され、自動車メーカー以外の事故関係者が車両情報の解析を行う必要性が見直されました。

リコールが行われた背景には、度重なる「アクセルの戻りが悪い」という苦情や、予期せぬ急加速による暴走が原因で起きた事故があります。2009年8月にレクサスES350が暴走し、4人が死亡する事故が発生したのをきっかけに、トヨタはアクセルペダルがフロアマットに引っかかる恐れがあるとして、380万台のフロアマットを自主回収するリコールを実施しました。

しかし、2009年11月にはロサンゼルス在住のオーナーがトヨタに集団訴訟を起こし、「トヨタは急加速問題を運転者のせいにしてきた」「運転者のミスやフロアマットだけでは数多くの急加速事例や事故を説明できない」と主張しました。トヨタは自社の責任を否定しながらも、426万台を対象にペダルの交換などのリコールを自主改善措置として発表しました。

2010年には北米や日本で大規模リコールが実施され、リコールと自主改修を行い全世界の1000万台が対象となりました。トヨタはフロアマットとは関係なくアクセルペダルが元の位置に戻りにくくなる可能性があるとしてリコールを発表し、社内調査の結果、アクセルペダルが摩耗によって動きが悪くなる事例を発見しています。

CDR解析が事故後のトラブル解消につながる

EDRの情報を活用することで、事故後のトラブルを解決できるケースがあります。2019年4月に東京池袋でトヨタのプリウスが暴走し、通行人を次々にはね、母子が死亡するという事故が発生しました。

被告人は自動車の不具合が原因でブレーキが効かなかったと無罪を主張していましたが、警視庁の捜査結果では、事故車両に不具合が見られずアクセルとブレーキの踏み間違いと判断されました。捜査ではトヨタに協力を要請し、EDRの情報を解析した結果、自動車に異常や技術的な問題は認められないとしています。

交通事故が起きたときに、実際の事故原因と当時者の発言が一致しないケースはよくあります。複数台の事故の場合は、それぞれの発言が食い違う場合があり、目撃者がいなかったり実証可能なデータがなかったりする場合は真実が分からない状態で過失割合が決定することもあるでしょう。

EDRのデータ解析を行うことで、事故発生時の自動車の挙動や運転者の操作状況を明らかにすることが可能です。さらにCDRを活用することで自動車メーカーだけでなく、損害保険会社などさまざまな立場から事故解析を行うことができ、より公平な判断が期待できます。

EDRの搭載が義務化される

2022年7月から販売される新型車には、EDRの搭載が義務化されました。継続生産車も2026年7月から、EDRの搭載が義務化されます。

海外でのEDR/CDRの動向

日本のEDRの義務化やCDRの活用は、アメリカに比べると遅れています。アメリカでは、2000年頃からEDRデータを活用した調査が広く採用されはじめ、2008年にEDRの統一規格が法規化されています。2012年にはEDRの記録事項の標準化と、CDRのような市場で入手可能なツールの提供を自動車メーカーに義務付けています。現在では、ほとんどの車種にCDRが対応しており、事故発生時のEDRデータの確認は一般的になっています。

国連WP29(自動車基準調和世界フォーラム)という会議において、2022年7月に全世界共通の国連法規として、EDRの搭載が義務化されています。ヨーロッパでも2022年7月にEDRの搭載が義務化されましたが、まだ装着率が低く、データへのアクセスが意図的にブロックされていることも多いため、普及しているとはいえません。

CDRがさらに活躍する時代がやってくる

EDR搭載の義務化を受け、今後CDRに対応している車両が増えることが予想されます。さらに、高齢者ドライバーの増加やASVの普及により、事故発生時の原因の調査が複雑化していくことも予想されるため、CDRの必要性が高まります。

事故の原因が自動車の不具合なのか、ドライバーの操作ミスなのかといった判断が難しいケースでは、EDRデータの解析が行われることが一般的になっていくでしょう。

また、今後はEDRやCDRの機能が充実していくことも予想されます。現在のEDRでは動画や音声の保存といったドライブレコーダーのような機能はありませんが、今後は内蔵されることも考えられます。

EDR/CDRの事業創出の可能性

EDR/CDRの活用は、事故発生時の分析だけでなく、さまざまな事業創出の可能性があります。さらにEDRのデータ解析には自動車の制御システムの知識や診断の経験が必要になるため、自動車整備士と相性の良い業務といえるでしょう。自動車のデータを活用した事業の具体例をご紹介します。

自動車保険評価サービス

これまでの自動車保険の保険料を決める際の評価方法を見直し、車両データを活用した新たな評価を行います。これまでは個人に対する保険料の評価は、等級や年齢などの条件で決められていましたが、車両データを活用することで一人一人により適正な評価を行えます。

EDRやCDRで記録された車両の運転データや事故データを分析し、運転行動やリスクを評価するサービスを提供します。保険会社やドライバーに対して、より正確な運転データに基づいた保険料設定や運転改善のアドバイスを提供することで、保険業界に革新をもたらすことができます。

ドライバーにとっても運転行動やリスクを監視される意味を持つため、安全運転を行えば保険料が下がるという意識が生まれ、事故率が下がることも期待されます。適正な評価による保険料や、事故率の低下によって生まれた利益を対価として得られます。

フリート管理ソリューション

EDRやCDRを活用して、企業やフリートオペレーターが保有する車両の運転データやメンテナンス情報をリアルタイムで監視・管理するソリューションを提供します。運転行動の改善やメンテナンススケジュールの最適化により、フリートの効率と安全性を向上させます。

自動車のメンテナンス情報をデータ管理できるようになることで、自動車ユーザーにとっては今まで受けていた定期点検の回数を減らしたり、メンテナンス不足による故障を防げたりするといったメリットがあります。

これまでのメンテナンスパックの代替となることが期待され、さらに運転データ分析という独自のサービスの提供も行えます。

高精度事故再現サービス

EDRやCDRで記録された事故データを利用して、事故の再現や原因究明を行うサービスを提供します。保険会社や交通事故調査機関、法執行機関などが利用することで、事故の責任割合や教訓の抽出に役立ちます。

従来の方法で明らかにできなかった事故状況を高精度で再現することで、過失割合で損失を生んでいる保険会社から対価を得られることが期待できます。

高精度運転アシスタンス

EDRやCDRによってリアルタイムの運転データを収集し、運転行動を解析することで、個別のドライバーに対して運転アシスタンスを提供します。例えば、運転中の注意欠如や疲労を検知して運転者に警告を発するなどのサービスが考えられます。

日常的に運転状況を監視し、危険通知や運転評価を通知するようなサービスを提供できます。さらに、高齢ドライバーの事故が社会問題となっていますが、危険運転時の通知だけでなく高齢者の判断スピードをデータで分析し、運転免許証を返納する必要性があるのか判断を手助けするようなサービスも行える可能性があります。

まとめ

EDR/CDRは今後さらに普及し、一般的に使用されるようになることが予想されます。EDRは自動車の事故発生時のデータを保存する装置のことで、CDRはBOSCHが販売するEDRを読み出す装置のことです。

ASVの普及や高齢者ドライバーの増加により自動車事故の原因は複雑化していくため、当時者の証言やドライブレコーダーの記録だけでは事故原因を明らかにできないケースが増えるでしょう。EDR/CDRを活用することで、事故発生時の自動車の挙動や運転者がどのような操作を行っていたかをデータで示すことが可能です。

自動車のデータを活用することで事故の解析だけでなく、さまざまな事業に生かすこともできます。EDR/CDRを使いデータを解析するためには、専門知識が必要なため自動車整備事業者と相性が良いといえるでしょう。

ビズピットは自動車のアフターサービスで事業を作ったことがあり、自動車整備工場のDXを推進しています。初回相談は無料ですので、ぜひお気軽にご相談ください。

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【引用】
※1  J-EDRの技術要件
https://www.mlit.go.jp/kisha/kisha08/09/090328/01.pdf

※2  BOSCH CDR DLC KIT シーディーアール DLCキット
https://finepiece.delivery/product.php?id=487

※3 BOSCH CDR 900 MTPS_AC/DC
https://finepiece.delivery/product.php?id=496

※ 4  CDRトレーニング日程表 2023年
https://www.boschaftermarket.com/xrm/media/images/country_specific/jp/equipment_20/solutions_9/cdr/2023_trainings_details_v3-1.pdf

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