自動車整備事業者が事業承継問題を解決するための方法とは?

昨今、我が国で顕在化している問題のひとつに「中小企業の後継者不在による事業承継問題」があり、自動車整備業界も例外ではありません。本稿では、自動車整備事業オーナーに向けて、事業承継問題の解決策のひとつとしてM&Aについて解説します。

長年にわたり大事に育ててきた顧客や従業員との関係を尊重しつつ、後継者問題を解決したいとお考えの自動車整備事業オーナーは、ぜひ参考にしてください。

【目次】
1 自動車整備業界の事業承継の現状とは?
2 後継者問題の解決策となる事業承継(M&A)
3 自動車整備業界における事業承継方法3選
 3-1 合併
 3-2 株式譲渡
 3-3 事業譲渡
4 自動車整備事業者が事業承継を成功させるために必要な要素
5 まとめ

自動車整備業界の事業承継の現状とは?

現在の日本では、中小企業の後継者不在による事業承継問題が顕在化しています。日本政策金融公庫が2019年に4,759社を対象に行なった調査(※1)によると、「後継者が決まっていない」と解答した中小企業の割合は全体の52.6%でした。

事業承継に関する問題は自動車整備業界も例外ではなく、日刊自動車新聞社の「自動車整備業界同行レポート(※2)」では、調査対象の750社のうち「後継者が決まっていない」と答えた事業者の割合は47.7%に上っています。

このように、近年になって自動車整備業界で後継者問題が浮き彫りになっている理由として、整備業界全体の人手不足が挙げられます。2018年に国土交通省により行われた「自動車分解整備業実態調査結果(※3)」では、2013年から2018年までの5年間で整備士の数が全体の約4.5%減少していることがわかりました。

後継者問題の解決策となる事業承継(M&A)

契約
オーナーが年齢などを理由にリタイアを考えているにも関わらず、後継者不在で、適切な人材を確保する目処も立っていない場合、M&Aが解決策のひとつとなります。

工場・設備のほか、経営ノウハウや従業員・既存の顧客・取引先との関係を維持したままで第三者に有償で譲渡するM&Aならば、リタイア後の資金となる可能性もあります。

ただし、M&Aにはある程度の知見や時間が必要となりますので、差し迫って事業承継問題を解決しなければならない方は決断を急がなければなりません。

M&Aでは、厳密な機密保持が求められ、情報漏洩により買い手・売り手間での交渉が決裂したケースもあります。そのため、M&Aに関わる人数を最小限に止めたり、関係者と秘密保持契約(NDA)を締結したりするなどの対策を実施しましょう。

M&Aを行うにあたって、買い手となる企業が気にするのはM&A成立後のシナジー効果です。経営統合後に期待できるシナジーが大きければ大きいほど、より高い金額で売却できる可能性があります。

自動車整備事業者の場合であれば、近隣の商圏でビジネスを行なっている同業他社に事業承継することで、交渉はさらにスムーズに進みやすくなると考えられます。自社の顧客や取引先、従業員に与える影響も最小限で済むでしょう。

自動車整備業界における事業承継方法3選

M&Aの実行方法(スキーム)はいくつか存在しますが、自動車整備業界では主に以下の3つが考えられます。

・合併
・株式譲渡
・事業譲渡

上記以外にも、事業に関する権利・資産を別の会社に譲渡する「会社分割」や、新規に発行する株式を対価として報酬を受け取る「新株引受け」、保有する株式を別の会社に移して自社を子会社化させる「株式交換」などがあります。

合併

合併とは、複数の会社が組織を解体し、ひとつの会社として再編成するスキームです。合併には、複数の会社が全て消滅して新たに会社を設立する「新設合併」と、1社のみが存続して他方の参加企業が消滅する「吸収合併」があります。自動車整備業界でも、後者の吸収合併は比較的多いのではないでしょうか。

合併では、「対等合併」の名の元に“企業買収”に抱きがちなネガティブなイメージを和らげることができます。合併の報酬として株式を選択すれば、買い手企業は資金調達を行わずにM&Aを実行できます。

株式譲渡

株式譲渡とは、自社の発行済みの株式を第三者に売却することで報酬を受け取るスキームです。買い手企業は、いずれかの方法で株式を買い集めます。

・相対取引…大株主などから直接株式を買い集める方法
・市場買付け…証券取引所などで株式を買い集める方法(※売り手が上場企業の場合のみ)
・公開買付け(TOB)…株式買付けの公告を行なって不特定多数の株主から買い集める方法

株式譲渡では自社の株を部分的に譲渡できるため、少しだけ株式を保有し続ければ、思い入れのある企業の経営に関わり続けることも可能です。

一方で、中小企業が株式譲渡を選択した場合、株式の行方がわからず株主の追跡に時間がかかるケースが多々ありますので、事前に株式の所在を確認しておきましょう。

事業譲渡

事業譲渡とは、会社そのものではなく自社の一部事業と、それに必要な有形・無形資産や人材を売却するスキームです。自社の経営権自体は保持しつつ、一部事業の売却益としてまとまった資金を手に入れられますので、複数事業を展開している自動車整備事業者には選択肢となるでしょう。

ただし、事業譲渡では財産所有権や契約関係の移譲手続きを行う関係上、売却が完了するまでに時間がかかるため、業績不振などで一刻も早く売却したいといった状況では選択肢から外れます。

自動車整備事業者が事業承継を成功させるために必要な要素

M&Aでは専門的な知識が求められ、自身が望む金額で会社を売却するためには価格交渉に関する理解と経験が必要です。M&Aでは初期段階から専門的な知識が多く求められるため、M&A仲介業者などの専門家を事前に見つけておけば、M&A実行までの時間を短縮できます。

中小企業のM&A成立を支援するための公的機関も存在し、中小企業庁の「事業承継ガイドライン(※4)」によると以下の機関が存在します。

・事業引継ぎ支援センター
・中小企業再生支援協議会
・独立行政法人中小企業基盤整備機構
・よろず支援拠点
・中小企業庁・経済産業局

上記専門機関以外にも、M&A成功のためには弁護士やファイナンシャルプランナーとアドバイザリー契約を結ぶのが賢明です。専門機関や専門家へ仲介を依頼する際は、事前に「報酬は都度支払う必要があるのか」「成功報酬型か」について確認しておきましょう。

まとめ

後継者不在を理由とする事業承継問題は、自動車整備業界でも対応が必要です。その解決手段のひとつがM&Aとなります。M&Aを行えば事業承継後の生活も楽になり、従業員の雇用も保障することが可能です。

弊社、大阪・兵庫を中心に事業を行うビズピット株式会社では自動車整備事業者向けの経営支援を行なっています。後継者不足により事業承継を検討している方が買い手候補企業を見つけるためのサポートはもちろん、「後継者問題の解決手段としてM&A事業承継が妥当かどうか」についても検討します。事業承継問題についてお悩みの方は、ぜひご相談ください。



【引用】
※1
・政策金融公庫
https://www.jfc.go.jp/n/findings/pdf/sme_findings200124.pdf

※2
・日刊自動車新聞社
https://www.forval.co.jp/consulting/pdf/forval-shoukei200917.pdf

※3
・国土交通省
https://www.mlit.go.jp/common/001092931.pdf

※4
・中小企業庁
https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/2016/161205shoukei1.pdf

【参考文献】
『企業買収の実務プロセス(木俣貴光著)』

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