日本車の輸出事情に見る整備事業者のビジネスチャンス

コロナ禍の影響で一時は輸出数が減ったものの、多くの国で日本車は根強い人気を誇ります。本稿では、そのような日本車の輸出事情について現状を交え解説し、自動車整備事業者の皆さまにとってどのようなビジネスチャンスがあるのか考察します。

【目次】
1 2021年時点での日本車の輸出事情
2 日本車の輸出先としてメジャーな国の代表例
 2-1 日本車人気が根強いロシア
 2-2 商用車が人気のサウジアラビア
3 中古車輸出にまつわる課題
 3-1 制度上中古車の輸入に規制がある国一覧
 3-2 自動車・機械類を輸出する際には検疫措置が必要な国もある
4 輸出車マーケットでは自動車整備事業者にとってどのようなビジネスチャンスがある?
 4-1 中古車の輸出前検査・価値算定
 4-2 輸出先ユーザーへの整備ノウハウの提供
5 まとめ

2021年時点での日本車の輸出事情

JAMA(一般社団法人日本自動車工業会)が公開している統計データを基にすると、2021年4月から6月の間で輸出された四輪車は98万3,407台でした(※1)。このレポートを見ると、コロナで一時的に5万台前後まで輸出量は落ち込んだものの、2021年時点では10万台前後まで回復していることがわかります。

しかし、四輪車の生産台数自体は半導体の供給遅れなども影響し、コロナ禍以降もそこまで回復していませんので、中古車のニーズが高まっていると言えるでしょう。実際に、2021年5月を前年同月と比較すると、2.2倍の輸出台数でした。

海外の大手メーカーと比較しても日本車は人気の部類で、2019年に行われた調査ではトヨタ自動車が2位、ルノー・日産・三菱自動車連合が3位と存在感を示しています(図1)。

図1.世界自動車メーカー 販売台数ランキング
販売台数ランキング
(出典:MONOist)

日本車の輸出先としてメジャーな国の代表例

日本の中古車輸出先の国として多いのは、ロシアやチリ、アラブ首長国連邦で、特にロシアでは日本車人気が根強いのが特徴です。 

日本車人気が根強いロシア

ベストカーWebで公開されている調査結果(※2)によると、ロシアでは左ハンドルがメジャーな国であるにも関わらず、右ハンドルの日本車の数が多くなっていると報告されています。最近のトレンドとしては、古い年代の車ではなく、現行モデルや年式の新しい車も見られたとのことです。

ロシアでは、ソビエト時代からの車の故障が多いらしく、これにより輸入車人気が高いと言われています。ロシアのモスクワ市内などで見られるのは日本車だけでなく、西ヨーロッパ諸国やアメリカ、中国民族系モデルの車種も散見されています。

新車としてはレクサスが人気で、これは「世界的な不況が起こると資産を守るために高級車を購入する」という国民性が顕在化したと分析されています。前述の通り、日本車は海外市場で高い評価を受けていますので、資産的な価値も十分にあると判断されたのではないでしょうか。

商用車が人気のサウジアラビア

サウジアラビアも日本車の輸出先として人気の国のひとつです。JETRO(日本貿易振興機構)の公開しているレポート(※3)によると、コロナ禍における感染拡大防止措置、VAT(付加価値税:日本で言う消費税のようなもの)の増税で貿易ビジネス自体は停滞したと報告されています。しかし、日本自動車が変わらずトップのシェアを占めており、商用車が人気です。特に、5トン未満の小型トラックが右肩上がりの好調だったと報告されています。

さらに、サウジアラビア政府はハイブリッド電気自動車にも力を入れており、トヨタともパートナーシップを築いています(※4)。サウジアラビアで日本車が人気である背景には、こういった事情もあるのかもしれません。今後は、サウジアラビアへのEVの輸出量も増える可能性があります。

中古車輸出にまつわる課題

自動車整備事業者にとってビジネスチャンスとなり得るのは、新車輸出よりも中古車輸出です。しかし、中古車の輸出については「中古車の輸入が規制されている国がある」「輸出の際には検疫措置が必要な場合がある」など、いくつか課題もあります。

制度上中古車の輸入に規制がある国一覧

中古車の輸入に関して「自国の産業を守る」との観点から規制をしている国も複数存在します。JETRO(日本貿易振興機構)の公開している情報(※5)によると、中古車輸入に関して規制がある国は以下の通りです(図2)。


図2.中古車の輸入に規制がある国々
販売台数ランキング
(資料)「JETRO」の公開情報をもとに、ビズピット作成

規制内容は国によって様々で、例えば中国は商業目的の中古車輸入が原則できません。ベトナムやタイなどは中古車輸入が可能ではあるものの、自動車の規格基準への適合が必要であることに加え、高関税・特別消費税などが重なり、ビジネス目的での輸出はほとんど旨味がないのが実情です。

しかし、日本の自動車メーカーはグローバル規模で展開しており、海外で現地生産工場を構えています(図3)。中古車輸入が難しい国であっても、日本車の現地生産が行われていれば日本と同様の整備・点検ニーズが発生しますので、日本の自動車整備事業者にとってビジネスチャンスにもなり得ると言えるでしょう。


図3.日系自動車メーカーの現地生産工場数
現地生産工場
(資料)「jama(日本自動車工業会)」の公開情報をもとに、ビズピット作成。

自動車・機械類を輸出する際には検疫措置が必要な国もある

自動車や機械類を輸出する際には、通常の整備点検以外にも、特別な検疫措置を施さなければならないケースもあります。例えば、ニュージーランドもそのうちの一国です。

農林水産省の情報を参照すると、ニュージーランド向けの自動車・機械の輸出では、果物や野菜などに害を及ぼすクサギカメムシの混入が警戒されています(※6)。そのための対策として2018年9月より新たに輸出検疫措置が取られるようになり、日本から輸出される新品・中古の自動車と機械類の双方で熱処理か、くん蒸処理のどちらかを行うことが義務となっています。

このように、中古車の輸入が可能な国であっても、場合によっては通常の輸出よりも工数が多くなるケースがあり、その場合は収益が思ったように伸びない可能性が出てくるでしょう。

輸出車マーケットでは自動車整備事業者にとってどのようなビジネスチャンスがある?

EVの普及やカーボンニュートラルなどを踏まえると、今後は輸出車の需要も変わっていくと予想されます。前述の輸出に関するハードルも踏まえた上で、輸出車関連のマーケットでは自動車整備関連においてどのようなビジネスチャンスがあるのか解説します。

中古車の輸出前検査・価値算定

輸出関連で自動車整備事業者が担えるのは、中古車の輸出前検査や価値算定の業務です。輸出前検査は、現状でも個人・法人向けに行っている企業が存在します。株式会社グリーンネット(※7)を例にとると、サービスの流れとしては「1.引き取り→2.車の保管→3.輸出前検査→4.船積みの手配→5.港への搬入」と、一気通貫での対応となります。

輸出前検査の内容としては、エンジンルームや下回りのスチーム洗浄、検査前の予備検査などです。輸出先の国によっては、年式規制や輸出前検査を義務付けている国もあります。例えば、パプアニューギニアは輸出前検査が義務化されている国のひとつで、検査内容は「車体構造」「年式」「走行距離計」「盗難車」「オゾン層破壊物質」「検疫」などです。

検査証明書なしではそういった国への輸出ができないため、輸出前検査業務のニーズは減り辛いと予想されます。

輸出前検査を行っている業者の中にはニュージーランド向けなど、特定の国に向けて輸出するために検査を行っている企業も存在します。自動車整備事業者としては、こういった企業と提携し、輸出前検査業務の一部を担当するなどのプランも考えられるでしょう。

輸出先ユーザーへの整備ノウハウの提供

日本車を輸入した国のユーザーにとっては、購入した日本車の整備・点検に関するノウハウも必要であると考えられます。そういったユーザーの受け皿となるために、実際には現地人材と連携して整備サポートサービスを行うまではいかなくても、問い合わせ体制を整え、情報提供するといったビジネスは需要があると予想できるでしょう。

現地ユーザーとやり取りをする際には言語の壁を解決するため、外国人技能実習生等の外国人材や通訳会社とのパートナーシップの形成が必要です。

前述のように、日本車の現地生産が行われている国も多くあります。そのため、自動車ユーザー向けにパッケージングした点検方法などを提供したり、現地のディーラーや整備工場向けに、より詳細な整備情報を体系化して販売したりといったビジネスは検討の余地があると言えます。

まとめ

日本車の輸出ビジネスはコロナ禍で影響を受け、一時は販売台数が下がりましたが、現在は需要が回復しています。輸入に関して規制を設けている国は多々存在するものの、日本車人気が根強い国も多くありますので、今後も日本車輸出のマーケットは一定の規模を維持するでしょう。

自動車整備事業者にとっては、輸出された日本車に関連するビジネスとして、中古車の輸出前検査や現地ユーザーへの整備ノウハウの提供などが検討できます。ビズピット株式会社でも、自動車整備事業者の皆さまが新たなビジネスを開発するための支援や、情報提供を行っていきます。輸出事業以外でもお困りのことがございましたら、お問い合わせください。



【引用】
※1
・日本自動車工業会
http://jamaserv.jama.or.jp/newdb/exp4/exp4TsTpCnEntry.html

※2
・ベストカーWeb
https://bestcarweb.jp/feature/column/214134?prd=1

※3
・JETRO
https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/2021/c34cd8b8a6aa74af.html

※4
・Abdul Latif Jameel
https://www.alj.com/ja/perspective/driving-success-saudi-arabia-across-middle-easts-rapidly-developing-automotive-markets/

※5
・JETRO
https://www.jetro.go.jp/world/qa/04J-101001.html

※6
・農林水産省
https://www.maff.go.jp/j/syouan/syokubo/keneki/bmsb.html

※7
・自動車物流総合ソリューションカンパニー
https://www.logi-co.co.jp/service/inspection.html

よかったらシェアしてください!
  • URLをコピーしました!
目次