自動運転社会における保険商品と整備事業者への影響

国土交通省の構想(※1)では2030年までに日本の自動車全体で85%程度まで普及が予測される自動運転車両ですが、変化が求められているのは車両整備業界だけではありません。変化に対応するため、保険業界でも新たな保険商品の開発が行われはじめています。

本稿では、現時点での保険会社の新たな取り組みを紹介すると共に、今後「保険業界では自動運転車両向けにどのような商品のニーズが高まるのか」について論じます。自動運転社会における移動手段に関するのカスタマージャーニー(顧客が商品を購入し、利用するまでの道のり)の変化も踏まえると、新たな保険商品は車両整備業界にとってどのようなビジネスチャンスをもたらすのでしょうか。

【目次】
1 自動運転車両が増えるにつれ、保険業界も変化する可能性がある
2 自動運転社会における保険商品開発に向けた業界の動き
 2-1 自動運転社会に向けた損保ジャパンの試み
 2-2 東京海上日動はJRやMaaS Tech Japanと協業開始
 2-3 あいおいニッセイ同和損保は、自動運転中の運転分保険料を無料とする自動車保険を開発
3 自動運転運転社会で登場が計画・予想されている保険商品
 3-1 自動運転社会で登場が予想される3つの保険商品
 3-2 自動運転保険はオンデマンド型が主流になる可能性もある
 3-3 「増進型保険」の増加
4 車両整備業者も保険会社との連携が必要不可欠に
5 まとめ

自動運転車両が増えるにつれ、保険業界も変化する可能性がある

自動運転にはレベル0 〜5という区分があり、2021年現在は「運転を部分的に自動化する」レベル2の技術までが普及しています。

2020年 11月には、ホンダが世界初となるレベル3の自動運転技術を搭載した「LEGEND(※2)」を発表し、2021年3月5日に販売されました。自動運転車両は、今後ますますの普及が期待されています。
 
このような自動運転車両の普及に伴って、保険業界が大幅な事業改革を行う可能性は大いにあります。JA共済が公開している「損保保険会社の令和元年度決算について(※3)」によると、令和元年度の保険会社の売上約50%が自動車関連保険によるものでした。自動運転車両が普及すると、ユーザーの自動車保険に対するニーズは徐々に減少すると予測されます。それはつまり、保険業界にとって大きな収入源となっている従来の自動車保険商品の需要自体が、減少することを意味しているのです。

つまり、自動運転社会にマッチした保険商品の開発は、各保険会社にとって重要な課題であるといえるでしょう。

自動運転社会における保険商品開発に向けた業界の動き

自動運転社会における保険商品開発に向けた業界の動き

本章では、2021年5月現在の、各保険会社の自動運転社会に向けた取り組みの例を紹介します。

自動運転社会に向けた損保ジャパンの試み

SOMPOホールディングス傘下の損保ジャパンは、2019年、自動運転社会の到来を見据え、これまでに蓄積した保険のノウハウを活かした保険商品の提供を行っていくとことを発表しています(※4)。

損保ジャパンが開発する『自動運転専用保険(実証実験向けオーダーメイド型)』は、自動運転に関わるリスクを包括的に補償するものです。これには、SOMPOリスクマネジメントによる「リスクコンサルティング」や、走行データをIoT分析し快適な自動運転の実現に繋げる「専用サービス」も内包されています。

東京海上日動はJRやMaaS Tech Japanと協業開始

安心・安全を実現するマイカー以外の交通手段をシームレスに繋ぐMaaS社会の推進のため、東京海上日動は、2020年にJR東日本やMaaS関連のコンサルティング・ソリューション開発を行っているMaaS Tech Japanと業務提携しました。その他、2019年には次世代型電動車椅子の開発などを行っているWHILL株式会社と資本業務提携を行っています(※5、※6、※7)。

東京海上日動はこれまでにも、自動走行システムが普及する中で迅速な被害者救済の仕組みを整えるため、「被害者救済費用等補償特約」を業界で初めて開発した実績があります。

MaaS向けの保険サービスの開発においても、提携企業とのノウハウ共有による自動運転社会に向けた貢献が期待されるでしょう。

あいおいニッセイ同和損保は、自動運転中の運転分保険料を無料とする自動車保険を開発


あいおいニッセイ同和損害保険(以下あいおいニッセイ同和損保)は、2020年10月より「自動運転モード」で走行中の車両の保険料を無料とする「自動運転対応テレマティクス自動車保険」を提供しています(※8)。

従来の自動車保険は、「基本保険料」に加え、毎月の走行量に応じて「運転分保険料」を支払う仕組みでした。

一方、「自動運転対応テレマティクス自動車保険」では、コネクティッドカーから取得した情報をもとに、自動運転モード時の「運転分保険料」が無料となります。今後、同様の自動車保険が増えれば、自動運転車両の普及にも貢献すると考えられます。

自動運転運転社会で登場が計画・予想されている保険商品

自動運転運転社会で登場が計画・予想されている保険商品

本章では「実際にどういった保険商品が登場するのか」について解説します。

自動運転社会で登場が予想される3つの保険商品

ニッセイ基礎研究所の発表によると、自動運転車両が完全に普及するまでの間の新たなニーズに対応した保険商品として、以下のような商品の登場が予測されています(※9)。

製造物責任保険…自動運転車の各種センサーや集積回路などの欠陥によって賠償が発生した際に補償する保険
サイバーセキュリティー保険…自動運転車が搭載するIT機器やソフトウェアがサイバー攻撃などを受けて賠償が発生した際に補償する保険
インフラ保険…自動運転車を制御する交通インフラセーフガードなどの補償を目的とした保険

同資料によると、2050年までに自動運転車両が徐々に普及することで、対物事故、対人事故が損害賠償責任の中心となっている現行の自動車保険のニーズは弱まってくると予測されています。

そんな中、自動運転車の普及によるニーズの高まりに対応した新たな保険商品がどんどん登場してくるでしょう。

自動運転保険はオンデマンド型が主流になる可能性もある

自動運転保険は、その場で必要に応じて加入できるオンデマンドタイプの保険が主流になる可能性も考えられます。オンデマンド保険とは「1日レジャー保険」「国内旅行保険」のように、期間を決めて短期で加入するタイプの保険です。

現行のオンデマンド保険は、アプリを使って保険の対象物や保険内容を指定し乗車中だけ保険に加入することも可能であるため、自動運転サービスとの相性がいいという特徴があります。

例を挙げると、米国の自動運転開発企業のウェイモは、オンデマンド保険を手がけるトロブと提携し、新たな保険商品の開発に着手しています(※10)。

増進型保険」の増加

増進型保険」とは、加入者の健康への取り組みに応じて割引が適用されるタイプの保険です。増新型保険は、毎年行われる健康診断の結果によって保険料の割引や還付金の受け取りが可能になる点が特徴です。また、契約後にウォーキングなどの健康に繋がる活動を行えば保険料が変動するタイプの商品もあります。

来たる自動運転社会では、都市部を中心として、駐車スペースの削減などより歩行者を優先した街づくりが計画されています(※11)。歩行しやすい環境が整うことで、増新型保険のニーズも、比例して増加すると考えられるでしょう。

車両整備業者も保険会社との連携が必要不可欠に

車両整備業者の方にとっても「どのような保険のニーズが高まるのか」について把握しておくことは、新たなビジネスチャンスに繋がります。

例えば、保険会社は自動運転保険を提供するために「どういった車が事故を起こしやすいか」などに関する整備データを必要としています。車両整備業者側は蓄積したデータを保険会社に提供することができます。そして保険会社側は、最新の保険情報を車両整備業者に提供することで、お互いに恩恵を得られるでしょう。

具体的には、整備業者経由でユーザーが保険に加入した際に、マージン率の優遇処置、保険会社からの事故整備の優先的な紹介などの恩恵が受けられる可能性があります。保険会社内における整備業者ランキングの向上なども期待できるでしょう。そうなれば、車両整備ビジネスで発生する収益の更なる増加も見込めます。

まとめ

自動運転車両が普及し補償に対するニーズが変化することに伴い、新たな保険商品は多数登場すると予想されます。車両整備業者の方にとっても、保険会社と協力することは、ビジネスチャンスにつながる可能性があります。

ビズピット株式会社では、損保会社とも連携し車両販売整備事業者さまのサポートを行っています。ぜひビズピットにご相談ください。



【引用】
※1
・国土交通省
https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001330176.pdf

※2
・MOTA
https://autoc-one.jp/catalog/honda/legend/

※3
・JA共済『損害保険会社の令和元年度決算について 』
https://www.jkri.or.jp/PDF/2020/Rep170nagai.pdf

※4
・SOMPO HD『自動運転車に対応した新たな保険の提供』
https://www.sompo-hd.com/csr/action/customer/content1/

※5
・JR東日本『JR 東日本と東京海上日動 安全・安心・快適な MaaS 社会実装推進と新たな保険サービスの共同開発に向けた業務提携』
https://www.jreast.co.jp/press/2020/20200716_ho01.pdf

※6
・Responce『東京海上日動とMaaSテックジャパン、MaaSサービスや保険商品の共同開発で業務提携』
https://response.jp/article/2020/06/21/335771.html

※7
・WHILL『WHILL株式会社が東京海上ホールディングス株式会社とMaaS社会実現に向けて資本業務提携』
https://whill.inc/jp/news/26384

※8
・Responce『あいおいニッセイ同和損保、自動運転走行分が無料となるテレマティクス保険を開発』
https://response.jp/article/2020/08/04/337220.html

※9
・ニッセイ基礎研究所『自動運転に対する保険-自動車保険の補償はどのように変わるのか?』
https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=58839?pno=2&more=1&site=nli#anka2

※10
・日経XTECH『自動運転時代の新規ビジネスを考える』
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00257/00006/?P=3

※11
・名古屋都市センター『自動運転がまちづく理に及ぼす影響に関する研究』
https://www.nup.or.jp/nui/user/media/document/investigation/h30/No137.pdf

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